前回のブログでは優しい人=理解者ではないとを書きました。

自分を本当に理解してくれる人はときに厳しく、突き放すような行動を取ることがあります。

依存症者や元受刑者の方は、自分への敵意からくる行動なのか、自分のことを想いあえて苦言を呈しているのか、見分ける力を養ってほしいと思います。

回復や更生を願う側のご家族、パートナー、ご友人は、境界線をしっかり引いて自分が手助けすることでお相手の未来がどうなるか、少し立ち止まって考えてみてください。

杖が無いと歩けない状態をずっと続ければ、歩くのが辛くなり、億劫になり、杖無しでは生きられなくなります。歩くことさえ諦めてしまうかもしれない。

依存症者も元受刑者も、杖無しで歩ける未来に向けて回復と更生をしてほしい。

あなたが杖になることで相手にどんな影響を与えるのか、どんな杖なら回復と更生を促せるのか、しっかり考えて支援をしていただきたいと思います。

 

 

刑務所の釈放前指導

 

今日は刑務所について書いていきます。皆さんは釈放前指導をご存知でしょうか?

刑務所と無縁の方は「何のこっちゃ?」と思われるでしょうから、まず釈放前指導について書いていきます。

その名の通り釈放前に受ける指導のことですが、前提として満期出所者は受けることが出来ず、仮釈放者のみが受けられる指導です。

湯浅はこのことを問題視しており、満期出所者にも仮釈放者と同様の指導を受けさせた方がいいと考えています。その理由は後述していきます。

 

釈放前指導で何をやるの?

 

湯浅が服役中に受けた釈放前指導を書いていきます。刑務所によって内容は違いますし、男子と女子でも大きな差があると思います。

・警察署から交通課の警官が来て、交通法規の変更について説明を受けました。また、服役中に免許が失効している場合の対処法を教えてくれました。

・女性特有の病気について説明を受け、出所後は子宮がんと乳がんの検診に行くよう勧められました。

・キャリアコンサルタントの方に履歴書の書き方を教えてもらいました。具体的には服役していた期間を履歴書にどのように記載するか、服役していたことを隠すか、正直に開示するか。隠す・開示することでどんなメリットとデメリットがあるかなどの説明を受けました。

・出所後にどのような生活を送るか?起床時間や就寝時間、1日のスケジュールを記載し、再犯しないために出来ることを各々考える時間がありました。

・満期までは選挙権が戻らない旨の説明がありました。

 


出所後の社会の変化に戸惑うことのないよう、最低限の知識を教えてくれるのが釈放前指導です。

 

 

10年以上の刑期の人は……

 

刑期が長ければ長いほど社会の仕組みは変化し、出所後に戸惑うことが多いと思います。

私は留置場含めて約3年、社会情勢を新聞と限られたTVニュースで情報を得ていましたが、たった3年でも出所後は別世界だと感じたのを良く覚えています。

刑期が長い人にとって大きな変化となる例を挙げます。

・切符からSuicaに変化
・キャッシュレス決済の大幅な普及
・ガラケーからスマホへ(デジタル化)
・自転車のヘルメット努力義務化、ながら運転・煽り運転等の厳罰化など交通法規の変化
・対面からオンラインへ(ZoomやTeams)

私が釈放前指導で一緒になった殺人の受刑者は、Suicaもスマホも聞いたことがあるだけで見たことはありません。皆さんはそんな彼女が釈放前指導を受けることなくいきなり社会に放り出されたら、どうなると思いますか?

浦島太郎、映画「ショーシャンクの空に」の最後の方に出てくるレジ打ちのおじいさん状態になるでしょう。

彼女の場合は釈放前指導で私服に着替えて最寄りの駅へ行き、切符の買い方を教わったそうです。切符がタッチパネルで買えること、Suicaをかざせば自動改札を通れることを実際に見て、出所後に備えます。

スマホの操作も簡単に教えてもらったそうです。ガラケーからスマホに変化しているわけですから、覚えるのは大変だったと思います。

 

 

釈放前指導とはこのような内容です。
皆さん何となくご理解いただけたでしょうか。

 

 

麓刑務所の釈放前指導について思うこと

 

まずこちらの記事をご覧ください。

 


簡単に説明すると、佐賀県の麓刑務所の釈放前指導で出所後の面接に向けてメイク講座を行った、という記事です。(麓刑務所は女子刑務所です)

記事のコメント欄を一通り見て、印象に残ったコメントを抜粋していきます。

 


 


 


 


上記の意見を読んで私はこのようなポストをしました。

 

化粧を教える前に貯蓄・税金について学ばせるのが先、刑務所の待遇を下げるのではなく一般社会の劣悪ぶりを何とかすべきはその通りだと思います。
 真面目にやっている自分たちが報われていないのに受刑者に施しをするなど以ての外という類のコメントを見ると、自分のことしか考えられないくらい精神的にも金銭的にも追い詰められている人が増えたと感じる。
受刑者が社会復帰しやすい環境を作るには国が今より豊かにならないと難しい。

 

そもそも釈放前指導の2週間という限られた期間で再犯しないための教育をするのは無理な話で、各々服役直後から出所に向け段階的に教えていく必要があるのだけれど、刑務所側もそれを理解していながら実現できない、苦肉の策が今回の釈前指導だと感じました。
 国民からすれば化粧の前にやることあるよねとなるのは当然なので、当事者である我々が実際の刑務所教育について発信する必要があるなとコメント欄を見て思いました。

 

たった2週間の釈放前指導では限界があるのです。

今回の記事の麓刑務所の釈放前指導はまさに苦肉の策で、職員も段階的に出所へ向けて指導をしなくてはいけないと分かっているけれど、圧倒的にマンパワーが足りない。

ならばせめて出所後、就労面接に行くときの最低限のメイクマナーを教えよう。

受刑直後から受刑者の刑期に合わせ、段階的に出所に向けた教育を始めなければならないと思っています。

なぜなら死刑と無期懲役でない限り、受刑者はいつか必ず社会復帰するからです。

※無期懲役は30年が経過しないと仮釈放の対象になりません。40歳で無期懲役になったとして最低でも70歳にならないと仮釈放の対象にならない、年齢によっては実質終身刑のようなものだと付け加えさせていただきます※
 

 

満期出所者こそ手厚い教育を!!

 

ブログ冒頭で満期出所者には釈放前指導が行われないと書きましたが、ここまでブログを読んでくださった皆さん、満期出所者ほど釈放前指導が必要だと思いませんか?

満期出所者は「今日で満期だからさようなら」といきなり社会に放り出されてしまうのです。

満期出所者がどのような人か分からない方もいらっしゃると思いますので追記しますと、刑務所に何度も服役している人、ヤクザ、身元引受人の居ない人は満期出所になる場合が多いです。

更生保護施設を帰住地に希望する人も居ますが、施設はとても混雑しており、仮釈放者が保護施設からなかなか出て行かなければ後ろが詰まります。

 

仮釈放後すぐに仕事を見つけられる人は極わずかです。

 

なかなか仕事が決まらず施設で暮らす者同士の揉め事が起こったり、内部・外部問わず薬物や犯罪の誘いもあります。

 

仕事が決まらなければ保護施設を出て行けない、生活が出来ない。だから仮釈放者が保護施設に留まってしまうのです。


このような理由から、仮釈放対象者でも更生保護施設が満杯だと満期出所になることがあります。
 

 

湯浅が受刑者へ最低限教えるべきと思う内容は次の通りです。

・生活保護の申請方法
・困ったときに頼れる場所と電話番号
・依存症の回復施設の案内(病院や自助グループ)
・健康保険、国民年金、納税の仕組み
・子どもがいる受刑者に対して子どもの教育や接し方
・高齢の受刑者には高齢福祉課の案内
・受刑者の刑期と時代の流れに沿った教育(デジタル面)


社会復帰のための基本的な教育が行われていないのが今の刑務所の現状です。

このブログを読んでくださる読者の皆さんには、刑務所の釈放前指導と教育の在り方について知っていただき、考えてほしいと思います。

皆さんが収めた税金で、私は刑務所で生活をしました。皆さんが納めた税金の行方を知ってください。興味を持ってください。

私はこれからも「元受刑者として」刑務所の教育について発信を続けます。
 

 

元受刑者BAR開催します!

 

 

今回の元受刑者BARは私の目標である宿輪龍英さんと1日店長をやります。(日にちは確定ですが時間は変更になる可能性があります)

皆さん良かったら遊びに来てください!!!