前回のブログでは、待ち人を卒業した相談者Mさんに実際に起きていることを書きました。

このブログを書いている現時点でもお二人の変化は目まぐるしく、Mさんは精神的に大変疲弊しています。

Hさんの声を直接聞くことは出来ていませんが、恐らく焦り、苛立ち、憤りがあると思います。


Mさんは長らく碧の森のカウンセリングから離れていましたが、凍結される前の依存症子アカウント(Twitter)から、私はお二人の仲睦まじい様子を見ていました。

 

 

なぜ一緒に住むことになった?


お二人が一緒に住むことになった理由は、Hさんが保護会を出ることになり、同居せざるを得ない状態になったからです。


ここで強調したいのは「同棲」ではなく「同居」だということ。


MさんがHさんと人生を共に歩むには、Hさんがあらゆる意味で独立することが大前提です。

あらゆる意味での独立とは、社会人としての基本も含まれます。仕事をする、給料の中でやり繰りをするのは最低限クリアしなくてはなりません。

Hさんは依存症者ですので、定期的に依存症の病院や自助グループへ通うことも独立に含まれます。


一人で生活するスキルをHさんは身に着ける必要があります。

一人で生活が出来ないようでは、誰かと人生を歩むなんて夢物語です。

 

 

MさんはHさんが家を見つけるまで、一時的に同居をすることにしました。
 

 

 

今日は洗い物をやってくれる?
煙草買ってくれるならやるけど。

 


お二人が同居を始めてすぐ喧嘩が起こりました。

「今日は洗い物をやってくれる?」とお願いしたら「煙草買ってくれるならやるけど」と答えたHさん。

Mさんは当然怒ります。誰が聞いてもMさんに対する思いやりや配慮がありませんよね。


HさんはMさんの家に居候の身です。親しき中にも礼儀あり、夫婦でもカップルでも言っていいことと悪いことがあります。

もしかしたらHさんは軽い冗談のつもりで言ったのかも知れません。軽口です。

 

満期から6年が経過した私も、空気を読まずに軽口をたたけば夫は不機嫌になると思います。

例えばですが、夫との何気ない日常の中で「よく私の出所を待ってられたよねぇ~」とか、「受刑者だったことなんてもう忘れたわ~」とか、服役したことをまるで他人事かのように振舞ったり、過去を忘れたようなことを言えば、夫は怒るでしょう。


出所後どれだけ真面目に仕事をしようが回復をしようが、「私に(俺に)散々迷惑をかけてきたくせに何言ってんの?」となるのが人だと私は思います。

 

 

同居するとイネイブラー・共依存になりやすい

 

イネイブラー、イネイブリング、共依存って何?と思われる方も多いと思いますので、どういう意味か改めて書いていきます。

イネイブラー

→本人に自覚がないまま、依存症の類を助長する人のことを指します。例えばアルコール依存症の夫の吐瀉物や排泄物を片付ける等の世話をする。ギャンブル依存症者や薬物依存症者の借金の肩代わりをする。当事者のあらゆる不始末の尻ぬぐいをすることです。
 

イネイブリング

→依存症の人の世話を焼いたり尻拭いをしたりすることによって、依存を続けやすくしてしまう行動のことです。

 

共依存
→自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存していて、その人間関係に囚われている状態を指します。「人を世話・介護することへの愛情=依存」、「愛情という名の支配=自己満足」です。共依存者は相手から依存されることに無意識のうちに自己の存在価値を見出し、相手をコントロールし自分の望む行動を取らせることで自分の心の平穏を保とうとします。


イネイブラーもイネイブリングも、依存症当事者に自立してもらいたい、まともになってもらいたいという責任感からくる行動だと思います。

・我が子の借金は親が返済しなければ!
・パートナーのだらしなさは妻である(夫である)自分の監督不行き届きだ!

分かりやすく書くとこのような責任感です。

ですがそれ故に、当人は酒を断つ・ギャンブルを止める、薬物を止めるきっかけや底つきを得ることができません。


以前Aさんから学ぶことAさんから学ぶこと#2母と女の葛藤というブログを書きました。

 

このブログに登場するAさんのお父様がまさに共依存、イネイブラー状態に陥っています。

お父様の思考はこうです。
Aの息子を(小学校4年生)里親に出すわけにはいかない、里親に出せば可愛い孫と二度と会えなくなるし、Aが可哀そうだ。体力的にも辛いけれど自分がAの代わりに孫の面倒を見る。

Aさんの思考はこうです。
お父さんが面倒を見てくれるなら息子が里親に出されることはないだろう。とりあえず嫌なことは先送り、お父さんが何とかしてくれる。

 

イネイブリングの観点で言うと、お父様はAさんの息子さんの面倒を見るべきではなかった。

 

お父様が良かれと思って取った行動がAさんを堕落させ、結果的にAさんの息子さんは里親に出されます。

 

 

お父様がイネイブリングをしなかったらどうなっていた?

 

これ、気になるところですよね。

・イネイブリングをしてもしなくても、Aさんの息子さんは里親に出されていたと思います。
・イネイブリングをしてもしなくても、Aさんはまた刑務所へ戻っていたと思います。

え?結果が同じならイネイブリングしたっていいじゃない!そう思う方もいらっしゃるかも知れません。

 


短期的な結果に変化はありません。

長期的な目で見てください。
 

 

我が子を、パートナーを、いつまで黒子のように操りますか?いつまで尻拭いを続けますか?

 

あなたが死ぬまで?ではあなたが死んだあと、当事者はどうやって生きるのでしょう?


あなたが今起こしているその行動、お子さんやパートナーのためになりますか?

将来の幸せに繋がると、自信を持って言えますか?

 

 

分かっていても離れられない、
イネイブリングがやめられない

 

こうして文字にすれば、イネイブリングも共依存も良くないことだと頭では分かる。

でも実際に行動に移すことは本当に難しいです。


HさんとMさんの最初の躓きは、同居をしたことです。

保護会は長く居られる場所ではありません。それはお二人とも重々理解していたはずです。

必ず立ちはだかる問題が見えているのに、その問題の対処を先送りにしてしまったツケは、遅かれ早かれ必ずやってきます。


行く所に困ったなら家に来れば?愛する人への対応としては、正しい。

依存症者や前科者に対しては、甘い。下手をすると転落です。

 

 

 

出所直後の気持ちを思い出して!


2週に分けて書いたこのブログは、依存症者・前科者とそのパートナーの多くが陥りがちなことだと思います。


あなたの人生と、あなたの大切なご家族やパートナーの人生を、どうか長期的な目で見てください。


今のあなたがやっていること、本当に本人のためになりますか?


HさんとMさんがこれからどうなるか分かりません。

私と夫もこれからどうなるか分かりません。


このブログでは私の生い立ちから受刑生活、出所後に起きた問題や考え方の変化、日々起きていることをリアルにお伝えしているつもりです。

私がこのようなブログを書けているのは、受刑生活があったからこそです。


人は長い年月をかけて変化していくものです。

HさんもMさんも「そう言えば昔こんなことがあった」と思う日は必ず来ます。

そのときお二人が一緒に居るか、違うパートナーと一緒に居るかは分かりません。


私とHさんとMさんの3人でお会いした昨年9月、HさんはMさんの目を真っ直ぐ見てこう言いました。

「Mちゃん、本当に待っていてくれてありがとう。」

あの言葉に決して嘘はない。
Hさんの曇りのない目を、私は実際に間近で見ています。


あのときの言葉を、気持ちを、Hさんが思い出してくれることを心から願います。


たとえどんな結果になろうとも、後悔しない人生を送りましょう。

今日もこうして当たり前のように文字を読めることに感謝をし、1日を過ごしていただきたいです。


 

 

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