前回のブログでは、母が私を虐待していたころの年齢と私の年齢が同年代になってきたと書きました。

 

今日は相談者さんが実際に直面している問題、待ち人卒業後の出来事について書いていきます。

 

 

相談者さんと彼と出所直後にお会いしました

 

出所した男性をHさん、待ち人の女性をMさんとします。

3人でカラオケボックスへ行きました。

今後起こるであろう問題について、待ち人視点と元受刑者視点(依存症者視点)でそれぞれお話をさせていただきました。


Mさん(元待ち人さん)に対してお話したことは以下です。

努力していることを褒めてもらいたい気持ちがHさんに必ず出てきます。これまでHさんがMさんにしてきた仕打ちを考えれば褒める気分になれないかも知れません。
昔より良くなった部分は、褒めなくてもいいので認めてあげて欲しいです。
出所後も甘やかさずにHさんが自立できる支援を続けてください。
これから必ず考え方のズレは生じます。Mさんは「Hさんに傷つけられた、苦労をさせられた」という思いから腹立たしさと苛立ちが起こり、Hさんには「これだけ変わったんだから少しぐらい認めてくれてもいいじゃないか」という気持ちが出てきます。
そのときにお互いが歩み寄れるのが一番ですが、これはお二人の一生の課題になると思います。

 


Hさん(元受刑者)にお話ししたことは以下です。

MさんはHさんの受刑前、Hさんの言動で散々傷付き、嫌な目にたくさん遭い、あらゆる尻拭いをしています。
Hさんがどれだけ回復と更生をしても、喧嘩をしたりMさんの嫌がることをすれば過去の記憶はすぐによみがえります。過去のHさんのやらかしは決して消えることはありません。
これだけ俺頑張ってんのに!努力してんのに!Hさんの努力が報われないことも出てくるでしょう。
でもよく考えてみてください。元々Hさんがしっかりしていれば服役することはなかったわけですから、全てHさんの責任だということを忘れないでください。
逃げたくなることもあるかも知れないけれど、元受刑者同士支え合いながら更生と回復に向けて頑張っていきましょう!


 

他にも色々とお伝えしましたが、待ち人と元受刑者のズレは必ず起こることを知っていただきたかったので、そこに重点を置いてお話ししたと記憶しています。

 

 

Hさんに気の緩みが出てきました

 

Hさんはお酒が好きです。Mさんは本音を言うとHさんにお酒を飲んで欲しくない。理由は服役前のHさんが「お酒でやらかした」過去があるからです。

3人でお話をして5ヶ月後、とある自助グループでMさんとHさんにお会いしました。

その自助グループはミーティングのあとに居酒屋へ行くことがありました。グループの主催者はHさんを飲みに誘います。


飲みに行かないで欲しい……と願ったのはMさんです。

私も誘いをはねのけて欲しいと思いましたが、HさんはMさんの顔色を伺いながら結果的に1時間だけ飲みに行きました。

HさんがMさんの顔色を伺うのは、飲酒をMさんが良く思っていないとHさんが理解している証拠です。


顔色を伺いながらも「このくらい大丈夫だよね?」と考えること自体が気の緩みです。
 

 

 

誰かのためにやめる、という認知は危険です。

 

読者の方の中には「お酒を飲んで欲しくないなら直接言えばいいのに、止めればいいのに」と思う方もいらっしゃると思います。

ここでMさんが「Hさん飲みに行かないで!私はお酒が入っているHさんは嫌い!」と言うのは簡単なんです。

MさんはHさんが自主的に「お酒をやめる」と決意しないと意味がないことを良く理解しているから、何も言わずに送り出しました。


MさんがHさんをがんじがらめにするのは簡単。いわゆるコントロールです。

コントロールされたHさんはやがて「Mちゃんの言うこと聞いてやってんのに!」となります。


私で例えます。

私は出所後にタバコを吸うようになりました。

それを夫が激しく咎め、「ふざけるな!俺のために止めろ!」と言ったとします。
私は自分のためではなく夫のためにタバコを止めます。しばらくはそれでもいいでしょう。
些細な喧嘩で過去のことを掘り返され、タバコを吸ったことを持ち出されれば、「あんたのために止めてんのに何で私が今あれこれ言われなきゃいけないんだよ!」となります。


誰かのために薬物、ギャンブル、飲酒、性的逸脱行為、自傷行為、窃盗、食べ吐き、買い物を止める。

初めのうちはそれでも良いと思います。

他人軸だといつか必ず「あなたのために止めてあげているのに」となります。

 

自分のために止める。

そのように考え方を変えないと、依存症からの長期的な回復は無理です。
 

 

MさんもHさんもお互いを尊重していました。

 

Mさんの腹の中は決して面白くない。過去の嫌な思い出もあるから出来るならばお酒とタバコは止めて欲しい。

でもHさんの考えや気持ちを尊重したい。いつかHさんが自ら気付く日が来る。

そう信じてHさんのやりたいことを応援していました。尊重していました。


Hさんも慣れない昼間の仕事を頑張りながら通院、自助グループへの参加を続け、保護会で生活をする日々を送ります。

保護会とは:保護会の正式名称は更生保護施設です。身元引受人が居ない場合、保護会が身元引受人となる場合があります。保護会の規則は厳しく、揉め事を防ぐために飲酒は不可、門限も決められています。刑務所の社会版、ある程度の自由が利く集団生活を送ることができます。

帰りを待っていてくれたMさんの期待に応えようと、今までやったことのない事柄に挑戦するHさん。

 


Hさんが保護会に居る間、喧嘩をしながらもその都度乗り越え、お互いを慮り、乗り越える度にお二人の絆が深まっていったと私は感じています。


お二人の関係が変化したのは、HさんがMさんの自宅に住み始めてからです。

保護会を6ヶ月で退所することになり、お二人は同居を始めます。


お二人の物理的な距離が一気に近くなります。嫌な部分も良い部分も、見たくない部分も目に入ります。


別居をしていたからこそ保っていられた境界線。

同居しながら互いに境界線を引くことは非常に難しいです。

知らないうちに踏み越え、気付いたら踏み込まれている……。



来週に続きます。

今日のブログはMさんに掲載の許可を取っています。