河井克行元法務大臣・河井案里参議院議員夫妻が公職選挙法違反で逮捕された。

 

選挙は公平でないと民主主義の根幹を揺るがすので、犯した罪が事実であるなら国会議員辞職相当の話だと思う。

 

ただ、同時に世間が騒ぎ立てるほどの大きな話かというとそうでもない。一般的に政治家が逮捕される案件とは汚職事件のようなものだ。今回の事件は選挙の車上運動員に対する報酬を制限以上に支払った事といわゆる陣中見舞いといわれる献金を裏で処理した事による公職選挙法違反だ。

 

なぜ、これらの事件が起こったのか考察してみよう。

 

最近の選挙違反で逮捕者まででて議員失職につながるのは、大半は運動員報酬だ。

 

運動員としては登録できずボランティアが前提の電話がけ(「〇〇候補をよろしくお願いします!」というよく選挙期間中にかかってくる電話)で報酬を払い逮捕になるという案件は多い。特に自民党のように業界・団体からのボランティア派遣がない野党陣営では電話がけでの逮捕者が多いし、これまでもそれで失職した議員は何人もいる。

 

そして、もう一つが運動員や運動員外への報酬だ。河井陣営のように運動員に支払い上限以上の報酬を支払ったり、登録されていない方に報酬を支払ったりして、買収として逮捕される。最近の選挙違反は大半はこの手の話だ。多くの方が政治家が一有権者に「票を売ってくれ!」というような買収をイメージするかもしれないが、政治家サイドも有権者サイドもこれが違反で悪い事と認識しているので、この手の選挙違反や犯罪は今ではない。

 

僕は選挙スタッフだった時にウグイス管理を含めて遊説行程班や広報班が専門だったが、ウグイスさんにはレベルがあってレベルが高いウグイスさんには上限以上の報酬を支払っているというのはざらだ。私が選挙スタッフとして携わった選挙でも1軍クラスのウグイスさんは日当3万円は受け取っていた。都会のプロと言われる方々はもっと貰っている。確かに、そのような人たちのテクニックは声のトーンだけでなく、動きも含めて上手い。しかし、選挙でのウグイスへの支払える上限額は日当1万5000円と決まっている。朝8時から車に乗り、夜8時までこき使われて、それも超短期で毎日入れるわけでもない業務。時給換算してもとても高いとはいえない。管理をしていた人間からすると上限はもっと上げてもいいのではないかと思う。一方で費用を出す候補者サイドとしては、選挙費用の圧縮もあり特に重くのしかかる人件費等はなるべく抑えたい。そのような意味では日当の上限が1万5000円というのは助かる部分もある。このような候補者サイドの複雑な事情もあるので、時代に合っていないと思っても改正につながらないのだと感じる。

 

個人的は地域によって最低賃金等も違うのだから各選挙管理委員会の判断でもっと地域ごとの差をつけてもいいのではないかとも感じる。河井陣営はルールを破ったので裁かれなければいけないが、こういった事業があるというのは有権者である国民は理解すべきだ。

 

また、今回の公職選挙法違反で一番注目されているのは約100人の政治家に総額2000万円以上のお金が支払われている件、これはいわゆる陣中見舞いといわれるものだ。ただ、これは自民党の独特の文化だと思う。自民党という組織は地方議員等で構成される党員が衆院選の時に動く。そこには経費が発生するので、国政選挙の時は地方議員が支部長を務める各支部に寄付を行ったり、地方議員の選挙時は陣中見舞いとしてまた寄付を行ったりしている。これは大半の自民党議員が行っているようで、各都道府県の選挙管理委員会で閲覧できる政治資金収支報告書で確認できる。

 

今回の件は何が問題だったのかというと、河井陣営も受けっとった議員側も収支報告書に記載していなかった事があげられる。政治資金規正法は政治家のお金の流れをオープンにし、それを有権者がチェックできるようにする為の制度なので、有権者がチェックできないように裏で処理した河井陣営の罪は深いものがある。ただ、一般の人が受けている「これで投票してくれ!」というお金の汚いイメージとはちょっと違うのかもしれない。

 

じゃあ、なぜ河井陣営も受けっとた側も記載すれば済むものを記載しなかったのか。

 

昨年の参院選広島選挙区では自民党が2議席独占の為に現職の溝手参議院議員と河井案里候補を擁立した。そして、ほとんどの団体票等は自民党は方針として溝手陣営につかせた。溝手陣営に公認料1500万に対して、河井陣形に1億5000万は多すぎるという批判があるが、2人区で2議席独占の為にはある意味仕方ない部分もある。2007年参院選の民主党の躍進も小沢代表のもと、公認料は平等ではなく勝たせないといけない選挙区や候補者に優先的に配られたという事実もある。

 

広島の自民党は以前から宏池会(現・岸田派)の牙城である。そして、溝手参議院議員も岸田派の重鎮であり、河井陣形から寄付や陣中見舞いを受け取ったという事実が政治資金収支報告書に載るのはその後の圧力等を考えて控えたいという思いが、受けっとが政治家サイドにも配った河井陣営にもあったのではなかろうか。これが、今回の事件の背景だと感じる。

 

買収かどうかというと、河井陣営は寄付や陣中見舞いの意味合いの方が強かっただろうから、買収の意味合いはなかったと思うが、お互いに収支報告書に載せていなかった以上、「買収」容疑で立件されてもいたしかたない部分もある。

 

「政治」、「カネ」というワードが結びつくと「政治とカネ」でネガティブなイメージを持たれる方もいるが、オープンにする事を大前提としたら全てが悪いお金ではない事は有権者は理解する必要はある。

 

ただ、河井夫妻がルールを破り、政治不信を高めているのを考えれば、彼らは潔く議員辞職をすべきだと考える。