「魚を貰ったよ。」

 

主人が帰宅するなりそう言った。

 

「ちょっとやそっとの魚じゃないんだよ。」

 

どれどれ、

 

わー、何これ?

 

箱の中には大小のヒラメ系の魚が一杯。

 

どうするの、こんなに。

 

数はともかく問題は、私も主人も鯖より大きな魚は未だかつて捌いた事がないということ。

 

お互いに調理を譲り合う。

 

しかし、案の定その役は、捌いたことはないけれど、其れを側で見たことがある私に回ってきた。

 

 

取りあえず1番大きな平目をまな板にのせる。

 

体長50cmは優に超える大物だ。

 

先ず、腸を取り背骨に沿って包丁を入れる。

 

入れる。

 

しかし文化包丁の刃は、いたずらに背骨をなぞるだけで、折りシワこそ付くものの一向に切れ目が見えてこない。

 

まるでノコギリのように、包丁で背骨を行ったり来たりさせている内に、それでもようやく白身が見えてきた。

 

さあ、これからが肝心なところ。

 

それを骨から剥がさなければならない。

 

ところが、意外にもスムーズにはかどった。

 

私って、才能あるんじゃない?

 

と自分の技術に酔いしれていたのもここまで。

 

いよいよ、皮を剥がすという大仕事に取りかかる。

 

板前さんは、確かこうやって、ああやって、こんな風にしていたっけ。

 

幾度となく皮が破け、やり直しを強いられた結果、なんとか捌く事が出来た。

 

あれほど大きかった平目は、ごく普通のサイズに変わり果て、側には厚く身の付いた中骨と皮が残された。

 

ともあれ、刺身はできた。

 

一口食べた主人は、

 

「うん、刺身だ。」

 

 

大好きなエンガワはどこかに行ってしまったけれど、生まれて初めての刺身は出来た。