実は人並み以上に臆病である。
世の中には、色々と恐ろしいモノがあるが、私が一番怖いモノ、それはオバケ。
義母に言わせると、それは若い証拠だとか。
歳をとるに連れ、そういうモノが怖くなくなってくるんだそうだ。
しかし、充分年を重ねてきたにも関わらず、今だその境地には至っていない。
そんな私だから、その恐ろしさを演出するツボも人一倍熟知している。
まだ館内に緑の公衆電話があった頃。
頻繁にいたずら電話がかかってきて、やたらと卑猥な言葉を吐く。
何度受話器を置いても、又すぐにかかってきて仕事にならない。
そこで一計を案じ、ちょっと驚かせてあげることにした。
受話器を取り、しばらくの間何も言わずじっとしている。
最初は、
「何だ、おい、なんとか言え。」
なんて脅しをかけに来たが、構わず無言のままでいる。
そうすると先方は??という気になるらしく、少し間が空く。
そこで用意した小さな鈴をチリ~ンと鳴らす。
息をのむ気配がする。
尚もチリ~ン、チリ~ン。
「ワ~ッ。」と叫んで電話を切ったきり、二度とかかってこなかった。
自業自得である。
さて、先日仕事の合間を縫い、主人と車でホタルを見に行った。
少しモヤがかかっていて、空には細く綺麗な三日月が。
人影ぐらいはぼんやりと見える程度の暗闇だった。
場所は片方に田んぼがある田舎の一本道。
もちろん民家などない。
少しでも灯りがあるとホタルが見えなくなるので、車のライトを消した。
私が前を行き、主人は車に乗ったまま後方で待機してもらった。
いた、いた、ホタルだ。
あ~あ良い気分。
夜風も気持ちが良い。
ぶらぶら歩いていると、やがて前方から一台の車がやってきた。
「あっ、まずい。」
その時、私は着物姿だったのだ。
こんな夜にこんな所を、着物姿の女性が一人で歩いていれば、それは幽霊と相場は決まっている。
幽霊のそこはかとない憂いなど持ち合わせていない私だが、なんせ暗闇なので・・・。
なんとか驚かせない方法はないものか。
とっさに、袂に入れておいたメガネをかけ、近づいてきた車の方を見た。
幽霊の姿は数あれど、たぶんメガネをかけた幽霊はいないはずだから。
案の定、その車は少しのブレもなく通りすぎていった。
行き過ぎてから、ちょっともったいないことをしたな、と思った。
今度来る時は、白っぽい着物を着て、髪は出来るだけ崩してみようかな、なんて思っている。