7月もすでに前半を終えました。昨日16日は名古屋シネマテークで2本の映画を見ましたが、そこまでを7月の前半11作品として以下に取りまとめておきます。本日のブログ記事は、大きく積み残している6月鑑賞の映画の一本、岐阜の柳ケ瀬の“昭和の映画館”ロイヤル劇場に出かけて見た溝口健二監督の映画『噂の女』です。ロイヤル劇場(料金は一律600円)。
@名古屋シネマテーク
『太陽の下の18才』(1962年、監督/カミロ・マストロチンクェ)
『女性上位時代』(1968年、監督/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ)
『カンウォンドのチカラ』(1998年、監督/ホン・サンス)
『狂ったバカンス』(1962年、監督/ルチアーノ・サルチェ)
『禁じられた抱擁』(1963年、監督/ダミアーノ・ダミアーニ)
『クローブヒッチ・キラー』(2018年、監督/ダンカン・スキルズ)
@ロイヤル劇場 <岐阜>
『喜劇 とんかつ一代』(1963年、監督/川島雄三)
@伏見ミリオン座
『シンプルな情熱』(2020年、監督/ダニエル・アービッド)
『アメリカン・ユートピア』(2021年、監督/スパイク・リー)
@ミッドランドスクエアシネマ2
『アジアの天使』(2021年、監督/石井裕也)
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2021年、監督/ジョン・クラシンスキー)
新型コロナウイルスの影響で、再び営業を自粛していた岐阜・柳ケ瀬のロイヤル劇場。上映スケジュールは大きく組み直されましたが、見たいなと思う作品は何とか鑑賞しようと思っています。溝口健二監督の2作品の連続上映ですが、代表作の一本というべき『近松物語』は数年前に名古屋の特集上映で見ていました。『噂の女』は未見の作品と思い出かけましたが、同じ時期に名古屋の劇場で見ていました…(汗)。何といい加減な映画見でしょう。
京都・島原で置屋と茶屋を兼ねた老舗遊郭の井筒屋。女将の初子(田中絹代)は夫亡き後、女手ひとつで老舗の商売を切り回している。一人娘の雪子(久我美子)は東京の音楽学校で学んでいたが、婚約の近かった恋人との別れをはかなみ自殺未遂を起こす。傷心の娘を東京まで迎えに行き、京都の自宅に連れ戻す。――そこから母娘の愛憎ドラマが始まります。
帰宅した初子は組合診療所の医師・的場(大谷友右衛門)に雪子の診察を頼みます。この若い医師に対して慕情を抱く初子は、やがて資金を援助し医者として独立させようと考えています。最初は店にやって来る的場に対して心を開かない雪子ですが、次第に親しく語り合うようになり、恋人との破局の原因が雪子の実家の商売にあったことなども告白する。
的場からこのことを聞いた初子は老舗の家業が娘の幸福の妨げになったという事実に衝撃を受けます。と同時に、初子は的場に病院を買ってやる援助により、彼と結婚しようとする希望を持ちます。そのためには老舗・井筒屋を売却してでもと決断をします。しかし、的場と娘の雪子はお互いに心を通わせるようになり、二人して東京に向かう計画を進めるのです…。
昨今の映画鑑賞の流れからいえば、若い医師・的場の“ダメンズ”ぶりに焦点を当てたくなりますが、溝口映画は良くも悪くも“女性映画”です。母娘が井筒屋の贔屓筋と共に能舞台を観劇するシーンがあります。その見物の最中に、席を離れた的場と雪子を追った初子は、的場が雪子を口説くのを目撃する。この時の田中絹代の演技は、この作品の見どころです。
開業費用の100万円を準備する一方で、自宅で二人の仲睦まじさを見せつけられた初子は、
強い嫉妬心から娘にもつらく当たります。正直いえば、私にはそれでも的場に約束の金を渡して身を引こうとする、初子の考えが今ひとつ理解できません。女手ひとつで老舗の遊郭を守ってきた“矜持”のようなものかもしれません。結局、その金をわが身のものにしようとする的場に雪子も愛想を尽かします。そして病床の母に代わり、家業を切り盛りし始めるのです。
この映画は1950年代の現代劇なのでしょうが、京都の遊郭・島原を舞台にしているだけに、もはや“古典”といっても不思議ではない世界。脚本を依田義賢と成澤昌茂、撮影を宮川一夫が担当する、まさに溝口作品らしい映画。音楽を担当している黛敏郎のサウンドは、東京・吉原の遊郭を舞台にした溝口監督の遺作『赤線地帯』(1956年)に繋がるものです。
『噂の女』(1954年、監督/溝口健二、脚本/依田義賢、成澤昌成、撮影/宮川一夫、美術/水谷浩、音楽/黛敏郎)