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岐阜・柳ケ瀬の“昭和の映画館”ロイヤル劇場の「ATG作品 青春映画 特集」という企画。1週目の黒木和雄監督の『祭りの準備』に続いて、2週目の根岸吉太郎監督の『遠雷』も見に出かけました。いずれも公開時に劇場鑑賞していますが、『祭りの準備』は鬱屈した高校時代に、『遠雷』は一人住まいの大学時代の鑑賞ですから“環境”は大きく異なります。

 

1981年に公開された『遠雷』は宇都宮周辺の土地を舞台に、都市化の波に流される人々の中で、土地にしがみつきトマト栽培に勤しむ青年の姿を描きます。立松和平の同名の小説の映画化で、脚本を担当したのは荒井晴彦です。監督の根岸吉太郎は、このATG作品以前に日活でロマンポルノ作品を7本ほど撮っています。ロイヤル劇場(料金は一律600円)。

 

遠雷

 

バブル景気に向かう頃なのでしょうか。主人公の満夫(永島敏行)は僅かな土地にしがみついてトマトを栽培しています。先祖代々の土地を大方売ってしまった父親(ケーシー高峰)は今は家を出てバーの女(藤田弓子)と同棲し、兄(森本レオ)も田舎を嫌って、東京でサラリーマンをしている。家に残っているのは満夫と母(七尾伶子)と祖母(原泉)の三人だけです。DASH!

 

トマト栽培に熱心な満夫に見合いの話があり、最初は乗り気でなかった彼も、出会ったあや子(石田えり)という相手がまんざらでもない。見合いの席から自由になると、満男はあや子をモーテルに誘い、早速に肉体関係を持つわけです。石田えり演じるあや子もさばけた性格ですが、本編の魅力の一つは“出荷前のトマト”のごとき石田えりの姿態なのは間違いない。

 

その一方で、子供の時からの友人・広次(ジョニー大倉)が工業団地に住む人妻・カエデ(横山リエ)と駆け落ちをする。カエデは満夫のビニールハウスにトマトを買いに来たこともあり、その成り行きで関係を結んだこともある。浮気性で嘘も平気でつくが、広次や満男からすると人妻のカエデは都会的な魅力に満ちた女性です(その夫を演じているのは蟹江敬三です)。

 

遠雷

 

40年ほど前にスクリーン鑑賞して以来の再見でしたが、赤みを帯びた褪色フィルムの上映はやはり自身の若き日を“遠き日々”と再認識させてくれます。しかし、石田えりの魅惑的な姿態の印象にまったくブレがないのは、Hは永遠ということかもしれません(笑)。そうした一方で、初見時に心を動かされたのに完全に失念していたシーンがあり、少し驚きました。爆弾

 

満男とあや子の結婚式の祝宴は、自宅で延々と執り行われるというもので、1980年当時にもあまりあり得ないスタイルです。ここはかつての“村”の祝宴をあえて目指したということなのでしょう。その夜、カエデと駆け落ちしていた広次が彼女を殺めて舞い戻る。祝宴を抜け出した満男と語り合う場面の見どころ、ジョニー大倉の独白シーンは胸打つものがありました。

 

そして、広次の警察への自首に付き添う満男ですが、彼と立場が入れ替わっていても何の不思議もないと感じる。そんな気分を引きずりながら自宅に戻れば、まだまだ宴は続いています。夜明けを間近にして新郎・満男と新婦・あや子がデュエットするのは、デビュー間もない頃の桜田淳子のヒット曲「私の青い鳥」。彼らと“同世代感”になる瞬間ともいえます。パー

 

『遠雷』(1981年、監督/根岸吉太郎、脚本/荒井晴彦、原作/立松和平、撮影/安藤庄平、美術/徳田博、音楽/井上堯之、編集/鈴木晄)

遠雷

 


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