作品を見た順番からいけば、伏見ミリオン座で上映のドキュメンタリー映画『MIFUNE THE LAST SAMURAI』(2016年)の方が先です。この作品の中で、黒澤明監督の子息である久雄氏が「娯楽作品を撮ることに徹した映画」であり、黒澤監督にとっても役者・三船敏郎にとっても“脂の乗りきった”時期の作品であるなんてコメントがあったことで、「午前十時の映画祭」で上映されているタイミングと重なりましたから、『用心棒』は見に行ったわけなんです(汗)

 

後から考えると、そもそもこのドキュメンタリー映画の公開自体が、今年の「午前十時の映画祭」の黒澤映画の連続上映と上手にクロスしている。もしかしたら配給に関わる映画関係者の意図が反映しているのかもしれません。『用心棒』はミッドランドスクエアシネマ(シニア当日1,100円)、『MIFUNE THE LAST SAMURAI』は伏見ミリオン座(シニア会員1,000円)。グッド!

 

午前十時の映画祭

 

用心棒

『用心棒』(1961年、監督・脚本/黒澤明、脚本/菊島隆三、撮影/宮川一夫、美術/村木与四郎、照明/石井長四郎、音楽/佐藤勝、監督助手/森谷司郎)

 

主人公は「桑畑三十郎」という名前を適当に名乗る、得体の知れない浪人(三船敏郎)。ふらりとやって来た宿場町では、町の縄張りの跡目相続をめぐって一つの宿湯に二人の親分が対立しています。三十郎は一方の親分である馬目の清兵衛(河津清三郎)のところにやって来て、もう一方の親分・丑寅(山茶花究)の子分3人を斬り捨て、その実力を見せつけます。ドンッ

 

清兵衛は三十郎を50両で傭いますが、女房のおりん(山田五十鈴)は強つくばりで、半金だけ渡して後で三十郎を殺せと清兵衛をけしかけます。これを知った三十郎はあっさり清兵衛の用心棒を断わり、居酒屋の権爺(東野英治郎)の店に居すわることに。いずれは敵対する両陣営が自身を高い値で傭いにくるだろうと予測し、その混乱を高みの見物するつもりです。

 

三十郎の真の狙いは、敵対する両陣営が互いの総力を挙げて抗争を仕掛け、共倒れさせることにあるのですが、その計画は思うようには進みません。特に、その計画の“難敵”になるのが宿場町に戻って来た丑寅の弟・卯之助(仲代達矢)です。彼は短銃を操る用心深い男で、丑寅方につくことになった三十郎の言動に対しても、まったく猜疑の眼差しを緩めません。パンチ!

 

用心棒

 

先に見ていたドキュメンタリー映画『MIFUNE THE LAST SAMURAI』には、女優の司葉子や土屋嘉男が本編に絡んでインタビューに答えていましたが、その時点では二人の役回りを完全に失念していました(恥)。“午前十時~”で久しぶりに本編を見て、博奕の借金のかたに女房を取り上げられた百姓夫婦という設定。彼らとの関わりで、三十郎は窮地に陥ります。
 

百姓・小平(土屋嘉男)の女房ぬい(司葉子)を妾にしているのは、丑寅の金の供給源である造酒屋の徳右衛門(志村高)。両陣営が人質を取るような浅ましい争いの中、小平と幼い息子の情ない様子を見た三十郎は、丑寅の一味から親子三人を逃がしてやる。このあたりの三十郎の行動は、非情な武士というよりも人情味がにじみ出る「用心棒」の魅力といえます。

 

ドラマ的には、ぬいが感謝のために三十郎に出した手紙を卯之助に見つけられ、捕えられた三十郎は土蔵の中で激しい責めを受けます。威風堂々としていた「用心棒」が見るも無残なボロボロの姿…となるのです。丑寅の一味の隙をついて何とか脱出を図り、権爺に匿ってもらう三十郎。この苦難があるからこそ、終盤の丑寅の一味との対決に大きなカタルシスがあるのでしょう。そして、その立ち回りには俳優・三船敏郎の技量が“全開”している感じでした。パー

 

用心棒

 

用心棒

 

                                                  

 

MIFUNE

『MIFUNE THE LAST SAMURAI』公式サイト

 

以下は映画『MIFUNE THE LAST SAMURAI』公式サイトに掲載されている作品紹介の文章(一部)です。

三船敏郎(1920-1997年)が、日本映画の黄金時代を創り出した偉大な俳優であることに異論を唱える者はいない。生涯に出演したのは約170作品。映画『用心棒』(1961年)、『赤ひげ』(1965年)では、ベネチア映画祭主演男優賞を受賞。これらの代表作は、黒澤明監督との出会いから生まれ、世界中の人々の心を掴んだ。

 

アメリカでジョン・フォード監督が俳優ジョン・ウェインと共に、荒野に生きる男たちの心情を情感豊かに表現することで、西部劇映画の質を高めたのと似ている。黒澤明監督と三船敏郎は、権力や社会に内在する抑圧に立ち向かう”個の立場”からスケールの大きな物語を紡ぎ、日本のチャンバラ映画を全く違うものに作り変えた。アップ

本作では黒澤明監督の『羅生門』(1950年)、『七人の侍』(1954年)、『蜘蛛巣城』(1957年)、『用心棒』(1961年)、『赤ひげ』(1965年)、稲垣浩監督の『宮本武蔵』など、全盛期の三船敏郎が出演した重要な作品に焦点を当て、記録映像や家族、俳優仲間、スタッフ、監督、映画評論家などのインタビューをもとに、”サムライ映画の進化”を加速させた三船の役割、そして彼の人生をドキュメンタリーとして描く。―― 

 

MIFUNE MIFUNE

 

黒澤映画を通して世界の映画人に注目されるようになった三船敏郎。このドキュメンタリー映画『MIFUNE THE LAST SAMURAI』は息子の三船史郎や、黒澤組のスクリプターとして撮影現場をともにした野上照代ら家族や親交の深かったスタッフ、三船敏郎をよく知る共演俳優たち、そして三船に魅了されたスティーブン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシといった海外の名匠ら、国内外の映画関係者へのインタビューと貴重な映像で構成されています。カチンコ

 

日本国内に向けただけの作品ではないことは、ナレーションを担当しているのが日本版ではEXILE のAKIRA、海外版ではキアヌ・リーブスと記述されていることからもわかります。さらにドキュメントしているのが俳優・三船敏郎の全貌というより、チャンバラ映画の伝統を踏まえた上で、黒澤・三船コンビが成し遂げた“サムライ映画”の極みを映像で綴っている印象です。

 

すでに見知っている黒澤映画の映像シーンよりも、個人的には戦前のサイレントのチャンバラ映画の映像の方が興味津々の状態でした。また、三船の出演映画も黒澤明や稲垣浩の他に、岡本喜八監督の作品があってもいいのでは…と思った次第。そして、インタビューで登場している俳優陣の中では、加藤武、土屋嘉男、夏木陽介ら、すでに鬼籍に入られた人も多い。日本映画を代表する俳優や巨匠の仕事ぶりを語る映像は貴重さを増すのでしょうね。パー

 

『MIFUNE THE LAST SAMURAI』(2016年、監督・脚本/スティーヴン・オカザキ、脚本/スチュアート・ガルブレイス4世、音楽/ジェフリー・ウッド、ナレーター/AKIRA)

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