5月から始まった名古屋・名演小劇場の「大映女優祭」、その上映終了からバトンタッチするように始まった6月の「大映男優祭」。事前に購入した前売券は3枚でしたが、追加で当日券で劇場鑑賞する意気込みはあったものの、結局、東京への“シネマ遠征”などもあり鑑賞は3作品に止まりました。まずは市川雷蔵主演の時代劇『大菩薩峠』、そして勝新太郎と田宮二郎の人気シリーズの第1弾『悪名』です。劇場は名演小劇場(前売券にて1,000円×2)。グッド!

 

大映男優祭「大映男優祭」公式サイト

 

大菩薩峠

『大菩薩峠』(1960年、監督/三隅研次、脚本/衣笠貞之助、原作/中里介山、撮影/今井ひろし、美術/内藤昭、音楽/鈴木静一)

 

映画のオープニングは大菩薩峠の頂上。黒紋付着流しの机龍之助(市川雷蔵)は、その場に居合わせた巡礼旅の老人を一刀のもとに斬り捨てる。残された孫娘のお松は、通り合わせた怪盗七兵衛に助けられて、江戸へ向かいます。彼女が成長した後を山本富士子が演じていますが、数年の経過にしてはその成長の早さと美しき変貌ぶりに、ちょっと驚かされます。ガーン

 

一方、自身が師範を務める道場へ帰った龍之助のもとに、宇津木文之丞の妹を騙る彼の許嫁・お浜(中村玉緒)がやって来る。御岳神社の奉納試合で文之丞に負けてくれるよう頼み込むお浜。しかし龍之助はこれを拒否した上、帰路についたお浜を水車小屋に押し込んで、その場で手籠めにしてしまう。とてもヒーローとは言えない悪道ぶりを発揮する主人公です。

 

奉納試合では怒りに震える文之丞が龍之助に殺気をはらんで迫りますが、龍之助の“音無しの構え”の前に一撃で打ち倒され、命を落とします。そして、龍之助はお浜と共に江戸へ去って行きます。この惨状を知った文之丞の弟・宇津木兵馬(本郷功次郎)は、妖剣“音無しの構え”を打ち破るため、剣豪・島田虎之助(島田正吾)の教えを受けるため江戸へ向かう。DASH!


大菩薩峠

 

主演は妖剣“音無しの構え”を操る机龍之助の市川雷蔵。そして、彼に手籠めにされながらも彼と生活を共にするのが中村玉緒。この作品を見る限り、中村玉緒がその女優としての力量を発揮しているように見えます。そして、祖父を龍之助に斬殺された娘・山本富士子と、龍之助を仇とする本郷功次郎が恋仲になっていく。この4人が本編のメイン・キャラクターです。グー

 

本編の展開は、江戸に出た龍之助が新撰組に出入りするようになるということで、ようやく私は作品の舞台が「幕末」だということを理解しました。近藤勇を演じているのが菅原謙二、芦沢鴨を根上淳が演じています。このあたりのキャスティングは「大映男優祭」で上映するにふさわしい感じです。芦沢を頼って新撰組に入った龍之助、これを追うようにして近藤の世話で新撰組入りする兵馬。二人の対決が始まろうとする京都・島原で本編は幕を閉じることに…。

 

中里介山による未完の原作についてまったく知識がありませんでした。また市川雷蔵以前にこのニヒルな主人公を演じた大河内伝次郎、片岡千恵蔵の映画化作品も見ていません。そんな予見のない映画ファンにしてみれば、雷蔵と本郷功次郎の対決が始まろうとする本編のエンディングは実に酷です。三部作の1本目とわかっていれば心構えはできていましたが…。パー

 

大菩薩峠

 

                                  

 

悪名

『悪名』(1961年、監督/田中徳三、脚本/依田義賢、原作/今東光、撮影/宮川一夫、美術/内藤昭、編集/菅沼完二、音楽/伊福部昭)

 

主人公は、河内の百姓の出身ながら無類の暴れ者で“肝っ玉に毛の生えた奴”と恐れられる八尾の朝吉(勝新太郎)。盆踊りの晩、隣村の人妻お千代(中田康子)と関係したことで有馬温泉へ駆落ちしますが、働きに出るお千代をゴロゴロ待っている“ヒモ”のような生活に飽きた朝吉はひとり大阪に戻ってくる。そこで出会った幼馴染の連中と松島遊廓にくり出します。DASH!

 

その松島遊廓で朝吉が出会うのが、琴糸(水谷良重)という源氏名の女。ふたりはすぐにいい仲になります。そして、その遊郭で朝吉の連れが酔った勢いで土地の暴れん坊、モートルの貞(田宮二郎)と騒動を起こします。地元では腕に自信のある貞ですが、堅気(?)の朝吉に散々に打ちのめされます。朝吉は貞の親分・吉岡(山茶花究)の客分として一家に身を預けることになりますが、喧嘩やバクチ場で無類の強さを示す朝吉に、貞も次第に心惹かれていく。

 

そんな折、朝吉と馴染を重ねていた琴糸が店を飛び出して、朝吉に助けを求めます。琴糸は吉岡の隣のお絹(中村玉緒)の家に匿われますが、地元の松島一家に捕えられて因島へ売られてしまいます。松島一家を恐れて匿うことを渋った吉岡の薄情さを怒った貞は、杯を返して朝吉を兄貴分として立てるようになる。そこから琴糸を救出する二人のドラマが始まります。

 

悪名

 

今東光の同名小説をもとに依田義賢がシナリオ化し、田中徳三が監督した『悪名』シリーズの第1作。勝新太郎と田宮二郎のコンビによる本編がヒットしたことで、以降は依田義賢のオリジナル・シナリオで16本のシリーズ作品になっている。私自身は勝新+田宮二郎のこのシリーズをスクリーンで見るのは初めて。今回の「大映男優祭」 で見逃したくなかった一本です。

 

勝新太郎が演じる“八尾の朝吉”はヤクザ組織に身を置くわけではなく、百姓出身の暴れ者という設定。それでいてヤクザ以上の度胸と腕力を見せつける、根の明るいやんちゃ坊主のような人物。ちょっと困っている表情を見せる女性がいれば、何とか救おうとする義侠心(?)を発揮するのは朝吉のキャラのでしょうが、どこか役者・勝新太郎のイメージにもつながります。

 

朝吉が因島に売られていった琴糸を助け出そうとすることに、最初に駆落ちした相手のお千代も、夫婦の約束を交わしたお絹も実に協力的です。浅はかで身勝手な男連中が跋扈している世の中ですが、勝新が演じるのであればこんな男もいるのではないかなという思いが湧きます。そして田宮二郎の巧みな関西弁の“インテリ風”ヤクザ、味わいのある配役でした。パー

 

悪名

 


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