ミツバチのささやき

「the アートシアター」公式サイト

 

「the アートシアター」の企画上映で『エル・スール』に引き続いて見たのは、同じくスペインのビクトル・エリセ監督の代表作『ミツバチのささやき』。個人的には1970年代にスクリーンで出会った映画にこだわる私ですが、このエリセ監督のデビュー作は未見でありましたし、公開時にブームになった1980年代の映画だと思っていました。今回の上映に伴って作品データを見ると、製作は1973年で、公開された同年に各国で映画賞を受賞していることを知りました。

 

1970年代にロードショー館で封切される外国映画は、ハリウッドで製作されてヒットしたアメリカ映画がおよそ“半年遅れ”で日本上陸しているイメージがあります。その最たるものは1975年の夏にアメリカで公開され、日本ではクリスマス・シーズンの前に公開されたスピルバーグ監督の『ジョーズ』。寒風の吹く12月に『ジョーズ』の満席立見の熱気に煽られた身です(笑)。

 

ですので1980年代を迎えてメジャーではないアート系の映画や、アジアを含めた各国の映画作品が日本で公開されることに、映画館から足が遠ざかりながらも気になる私でした。このエリセ監督の長編第1作は、日本公開の1985年に大きな話題になりましたし、邦題が印象的ですから記憶の底に貼り付いていました。劇場は名古屋シネマテーク(会員当日1,200円)。グッド!

 

ミツバチのささやき

 

「the アートシアター」のチラシには、この映画の紹介が以下のように綴られています。

 

スペイン・フランコ独裁政権下で撮られた本作。

少女役のアナ・トレントの天才的な演技と繊細な描写による映画史上に傑出した作品。

 

スペインのある小さな村に『フランケンシュタイン』の巡回上映がやってくる。6歳の少女アナ(アナ・トレント)はスクリーン上の怪物を精霊と思い、姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞いたアナは、ある日、その家を訪れる。そこでひとりの謎めいた負傷兵と出会い…。

 

スペインのカスティーリャ地方の小さな村が舞台になっていて、時代は1940年、フランコ政権軍が人民戦線政府に勝利し、スペイン内戦が終結して間もない頃という設定です。主人公の

アナは6歳の内気な少女。父フェルナンドはミツバチの研究に没頭し、母テレサは内戦時に別れた恋人に手紙を書き続けている。姉イサベルとは仲は良いが、いつもからかわれている。

 

村にやってきた移動映画の『フランケンシュタイン』の世界に心を奪われるアナです。姉のイサベルからはフランケンシュタインは怪物ではなく精霊で、村はずれの一軒家に隠れていると教えられる。やがてその家に一人で出かけるようになるのですが、そこで負傷した逃亡者の男と出会います。逃亡者に恐れを見せる様子もなく、アナは彼に食べ物を与えるのです。ニコニコ

 

ミツバチのささやき

 

この映画を見終えてから、自宅で長年の連れ合いに“もしかしたら…”この作品を見ているのではないかと尋ねました。答えは就職2年目に友人と名古屋まで出かけて見たとのこと。雑誌で取り上げられていて、題名も少女も可愛げで期待していただけに、ストーリー的に理解できずに友人とふたりして腹を立てた記憶が残っていると。あまり良い記憶ではないですね。DASH!

 

30年来の連れ合いに繊細さが欠けているのは承知していますが、この『ミツバチのささやき』の鑑賞後の感想には、わずかに擁護をしてやりたくなる気持ちが私にはあります。先に名古屋シネマテークで見た『エル・スール』について、「“学び”の必要を感じる映画」と私はまとめましたが、その表現は同じように少女の“目線”を通して描写される本編にも当てはまります。

 

スペインの鄙びた村を舞台にして、スペイン内戦後の時代の雰囲気がある種の“暗喩”として描き出されている。内戦により分裂した国は、独裁政権のもとで報復の恐怖から沈黙を強いられるわけで、この映画が独裁政治が終了する前の1973年に撮られていることの意味は大きいと思います。あえて6歳の少女の“目線”で描写しているものに、イメージの翼を広げて本編は見るべきなのでしょう。私の連れ合いの20代では、そこまでの思慮はなかったはずです。パー

 

 

(1973年、監督・脚本/ビクトル・エリセ、製作/エリアス・ケレヘタ、脚本/アンヘル・フェルナンデス=サントス、撮影/ルイス・クアドラド、音楽:ルイス・デ・パブロ)

ミツバチのささやき

 

ミツバチのささやき

 


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