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『江分利満氏の優雅な生活』(1963年、監督/岡本喜八、脚本/井手俊郎、原作/山口瞳、撮影/村井博、音楽/佐藤勝、編集/黒岩義民)

 

2月に川島雄三監督の『暖簾』を見に行ってから、しばらく足が遠のいていましたが、4月の第2土曜日に岐阜まで“プチ遠征”して昭和の映画を鑑賞してきました。作品は山口瞳の直木賞受賞の原作小説を、岡本喜八が監督した映画『江分利満氏の優雅な生活』。1963年(昭和38年)に製作されたこの東宝作品はモノクロ・シネスコサイズ、もちろんフィルム上映です。映画

 

今回もワイドな画面を堪能すべく、いつものスクリーン正面の5列目へ。上映開始までに時間がなく、コンビニで“かっぱえびせん”を買い求めることができずに、劇場の売店で販売していた“あたり前田のクラッカー”を食べながらの作品鑑賞です。昭和の映画を見る際には、昭和らしいお菓子も必需品と思う今日この頃です(笑)。 ロイヤル劇場(料金は一律500円)。

 

江分利満氏の優雅な生活

 

直木賞の受賞作であり山口瞳の出世作ともいうべき原作本を、私は読んでいません。そして岡本喜八監督の映画も、あまり熱心には見ておりません(汗)。岡本監督の作品でスクリーン鑑賞しているものは、1970年代の『ダイナマイトどんどん』『ブルークリスマス』などごくわずか。『ああ爆弾』『殺人狂時代』は思い切ってDVDを購入しましたが、いまだ未開封です。

 

そんな岡本映画に免疫のない“ウブ”(?)な私からすれば、『江分利満氏の優雅な生活』は随分と“ハジけた”映画を撮っているな~というのが率直な感想です。こんな映画の撮り方が許される(映画会社としては管理できない?)状態なのは、日本映画に活況があって大量消費のための大量生産が求められていた“プログラムピクチャー”の時代だからなのでしょう。口笛

 

主人公の江分利満氏を演じるのは小林桂樹。原作では大正15年生まれで、“東西電機”の宣伝部に務めるサラリーマンという設定のようですが、映画ではそれが“サントリー”の宣伝部となっています。原作者・山口瞳の実像に近づけた映像化のようですが、年齢は昭和の元号の年数と一致している“戦中派”に変わりはない。昭和30年代を生きる30代のサラリーマンです。

 

江分利満氏の優雅な生活

 

36歳を迎えた江分利は現在、妻の夏子(新珠三千代)と息子・庄助(矢内茂)、そして父の明治(東野英治郎)の4人で社宅に住んでいる。サラリーマン生活が面白くなく、無気力である。仕事を終えれば、同僚たちに疎まれながらもハシゴ酒するような日々。そんな江分利の言動に目を付けていた雑誌社の人間と、酔った勢いとはいえ原稿を書く約束をしてしまいます。あせる

 

何を書こうか悩んだ末に、自分のような才能のない平凡なサラリーマンが生きていくことの大変さを綴ろうと決心するのです。夏子との結婚、息子の誕生。懸命に戦後を家族のために生きてきた江分利ですが、昭和34年の大晦日に母親が亡くなる。何度かの成金と破産を経て、抜け殻のようになった父親に失望しながらも、日々の生活を何とかやっていこうとしている…。

 

そんな江分利の小説とも随筆ともつかぬ作品「江分利満氏の優雅な生活」は直木賞を受賞。しかし、世間から注目される作家になっても、酒を飲めば同僚たちに執拗にカラむ江分利なのです。終盤に展開する江分利のの“ボヤキ”シーンは圧倒的です。アニメーションの画像を取り入れ、ストップモーションなどの技巧を凝らした斬新な作品で、ライトなコメディと思っていると足元をすくわれます。私にとっては父親世代の“戦中派”の心情が伝わる異色作品です。パー

 

江分利満氏の優雅な生活

 

名うての日本映画ファン・快楽亭ブラック師匠の著書「日本映画に愛の鞭とロウソクを」に、岡本喜八監督との対談が収録されています。当初この映画を監督する予定だった川島雄三監督の急死により、“ピンチヒッター”になったという岡本監督の発言を引用します(P210)。本

 

岡本 (前文略) ― 当初、川島さんの構想ではキャメラを室内から一歩も出さずに撮る予定だったらしく、僕は川島さんのことをとても尊敬してたし、ファンだったから楽しみにしていました。でも急に亡くなられて、僕のところに話がきたんですよ。それなら時間的にも空間的にも逆のことをやって、その時代に合う手法を使い思うままに撮ってみようと。それで江分利満氏の個人史ということにして、後半のほとんどを戦中派の心情の独白に費やそうとしたんですね。幸い台本ができてなかったんで、自分の思う通りのことをできた。監督には言いたいこととやりたいことと、二つの欲求があるけれども、その両方に挑戦できたという意味では好きなんです。―  (後文略)

 

 

 

 

▼岐阜・柳ケ瀬のロイヤル劇場の4月~5月の上映作品です。松方弘樹さん、そして鈴木清順監督と追悼上映が続きます。GW休みがありますから、清順監督の作品は見に行きたいと思っています。この時季に岐阜にお出かけの方があれば、どうぞロイヤル劇場へご来館を。ウインク

 


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