名古屋駅西のシネマスコーレで開催していた若尾文子映画祭・青春”も、とうとう終幕を迎
えました。名古屋での今回の上映作品は全22本でしたが、私はほぼ予定通りの14本を見ま
した。この田中重雄監督の『不倫』は10本目に見た作品です。残り4本の作品は、引き続き
記事にしていきますので、どうぞ呆れることなくお付き合いください(笑)。決して大盛況とは
言い難い今回の“若尾文子映画祭”ですが、願わくは第2回が開催されることを切望します。
シネマスコーレさん、よろしくお願い申し上げます。シネマスコーレ(会員当日1,000円)。

若尾文子映画祭パンフ 

不倫 
『不倫』(1965年、監督/田中重雄、脚本/長谷川公之、原作/宇能鴻一郎、撮影/高橋通夫、美術/柴田篤二、音楽/木下忠司)

物語は主人公・佐分利(川崎敬三)のモノローグで進みます。彼は「性の美学」という著書で
評論新人賞を得たばかりの若手文化人。その著書の内容は、人類が夫婦という形に囚われ
るようになったのはつい最近のことで、性は本来もっと自由に男女が緊張と不安のうちに営
むべきというもの。彼は結婚という形式を否定する論者であり、それを実践しようとします。

実生活において、佐分利は聖子(若尾文子)と麻樹(江波杏子)という対照的なタイプの二人
の女性と、自由な関係を保っています。聖子は和服が似合うしとやかで献身的な女性、一方
の麻樹は出版社に勤める現代的なドライな考え方をする女性です。二人の女性は直接会っ
たことはありませんが、お互いにその存在に気づくと秘かに女同士の“闘い”を繰り広げる。

やがて、聖子が妊娠したことから、状況は大きく変わることになる。中絶の求めに応じた聖子
に対して、その代償として夫婦としてではなく“兄妹”として同居することを決めるのです。さら
に新居で聖子に麻樹を引き合わせるが、二人の女は対立するどころか、いきなり意気投合し
て親密な関係になっていく。やがて麻樹を新居に迎え、三人は共同生活を始めることに。

不倫 

最初は持論を自らの生活で実践しているつもりの佐分利ですが、女同士でひとつの部屋に
寝る二人の関係が心配になり、二人の間に布団を敷いて三人一緒に眠るようになります。
私などはこれこそ「愛妾同衾」ではないかと思うのですが、結婚という形式に囚われない佐
分利にとっては異なる意味になるのでしょう。しかし、女二人を操っていたつもりが、次第に
女たちの感情に振り回されるようになり、佐分利は肉体的にも精神的にも疲弊していく。

ストーリーを追っかけると深刻っぽい作品に思えますが、川崎敬三のキャラクターと演技か
らはコミカルな味わいを強く感じます。宇能鴻一郎の小説はまったくと言っていいほど読んで
いませんが、そもそも深刻な愛欲ドラマを描く作家ではないはず。劇場内で大きな笑いが起
きることはありませんでしたが、苦笑・微苦笑の類いは見受けました(もちろん私も・・・笑)。

若尾さんの特集上映ですから、彼女の役柄・演技にも触れておきます。麻樹がパリに行くと
言い残して共同生活を脱しようとすると、聖子は自殺未遂を起こして彼女をつなぎとめます。
しとやかな仮面の下に狡猾な内面を潜ませている点では、『女系家族』(1963年)の愛人役に
通じるものがあります。30代を迎えてからの彼女の女優としての新たな一面といえますね。

また、この映画では和服に身を包む若尾さんに対して、その若さをラブシーンや水着姿で見
せつける江波杏子さん。若い頃はこれほど豊かなボディとは知りませんでした。これもまた
本編の見どころと言えるのではないでしょうか(笑)。そういえば若尾さんの代役で主演映画
を撮ったことから、江波さんの代表作「女賭博師」シリーズへとつながっていくわけです。

不倫 


                                                       

                                                                       
宇能鴻一郎の小説をほとんど読んでいなくても、深刻な愛欲ドラマを描く作家ではないはず
と断定してしまうのは、1980年前後の日活ロマンポルノで宇能鴻一郎の原作映画に随分と
触れているからでしょう。映画タイトルに必ず「宇能鴻一郎の」という“冠”を添えていました。

画像検索で4作品ほど貼り付けました。本当は公開時の映画ポスターが良かったのですが、
それだと“検閲”に引っかかるでしょう。そもそもポスター画像は見当たりませんでした(涙)。
ですので、すべてDVDパッケージの画像です。「宇能鴻一郎の~」シリーズはいずれも軽い
タッチの艶笑ドラマという記憶ですが、主演女優はカワイ子ちゃんの系統ですね。わずかな
作品からでもロマンポルノのヒロインの変遷のスピードの速さを感じざるを得ないです。

原悦子 寺島まゆみ
 『宇能鴻一郎の 濡れて悶える』(1980年、監督/西村昭五郎、主演/原悦子)
 『宇能鴻一郎の 開いて写して』(1981年、監督/西村昭五郎、主演/寺島まゆみ)

朝比奈順子       山本奈津子 
『宇能鴻一郎の 濡れて騎る』(1982年、監督/鈴木潤一、主演/朝比奈順子)
    → この時期、美保純はまだ“助演”でのスクリーン登場です。
『宇能鴻一郎の 濡れて打つ』(1984年、監督/金子修介、主演/山本奈津子)
     → 後に平成ガメラ・シリーズを撮ることになる金子修介の監督デビュー作です。



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