昨年の名古屋公開時には見逃してしまった山本政志監督の『水の声を聞く』を、刈谷
まで足を延ばして見てきた。山本監督の作品は刈谷日劇のスクリーン1での上映。通
常料金1,700円のところを、サービスカードで5ポイントを達成していたので無料鑑賞。

129分の『水の声を聞く』を見終えた後は、隣のスクリーン2へ移動。こちらでは山本監
督がプロデュースする実践映画塾「シネマ☆インパクト」の作品4本の上映をしていて、
最後の上映作品『止まない晴れ』にぎりぎり間に合った。32分の短編作品を撮ったの
『私の男』の熊切和嘉監督。こちらは当日の最終上映なので料金500円にて。

水の声を聞く
 『水の声を聞く』公式サイト
『水の声を聞く』(2014年、監督・脚本/山本政志、撮影/高木風太、音楽/Dr.Tommy、129分)

映画の舞台は東京・新宿のコリアンタウン。在日韓国人のミンジョン(玄里)は友人・
美奈(趣里)の誘いにのり、ほんの小遣い稼ぎのつもりで“巫女”姿での占いを始める。
軽くひと稼ぎし、頃合いを見てやめるつもりでいたが、救済を乞う“信者”が次第に増え、
宗教団体「真教・神の水」が設立されることで、後戻りができない状況になっていく。

最初は教団を影で操ろうとする広告代理店の男・赤尾(村上淳)の指示に、従順に従っ
ているミンジョン。教団の周辺には借金取りに追われるミンジョンの父親(鎌滝秋浩)、
彼を執拗に追う狂気じみたヤクザ(小田敬)ら、あやしげな人物が行き交うことになる。

水の声を聞く 

教団に夢を託す男女や救済を乞う信者達、教団の規模が大きくなるにつれてストレ
スを抱えることになるミンジョン。聖なる教祖という立場と、ごく平凡な俗な自分自身
の狭間で苦悩は深まる。教団の誰にも告げずに、自分の“ルーツ”探しの旅に出る
彼女は、母方の祖母の生き方に触れることで、教祖としての生き方に吹っ切れる。

教団に戻ったミンジョンは、偽物だった宗教に心が入ってくる。与えられた台本の言
葉ではなく、自分自身の言葉で信者に語り始め、全身全霊で“祈り”を捧げ始める。
扱いづらくなったミンジョンに戸惑う赤尾。そして、彼女を排除して教団の運営を考え
る幹部たち。大いなる“祈り”をめざした彼女を待っているのは過酷な運命だ。 

水の声を聞く 

東京のコリアンタウンを舞台にした、新興宗教にまつわる現代的なドラマと思って映
画を見はじめた。ミンジョンが“ルーツ”探しの旅に出て不在の際に、急きょピンチヒッ
ターの教祖を作り上げてしまうあたり、宗教にまつわる”いかがわしさ”を感じないわ
けではない。ただ、ミンジョン本人は旅を通じて、世界を救済する宗教に目覚める。

教祖としてまったくの“偽者”であった彼女が周囲からちやほやされ、“本物”をめざす
ようになると疎まれるというのも、実に皮肉めいている。また、彼女の母方の祖母が
済州島の出身であり、過酷な人生を経験したこと。これは映画『チスル』(2012年)で
「済州島4・3事件」について知っていたので、すんなり腑に落ちました。ミンジョンにと
って“血脈”を辿る物語であり、同時に自然の持つ生命力に触れる物語でした。

                        

シネマインパクト 
止まない晴れ 
『止まない晴れ』(2013年、監督/熊切和嘉、制作/山本政志、脚本/辻田洋一郎、撮影/高木風太、32分)
 
山本政志監督がプロデュースする実践映画塾「シネマ☆インパクト」の作品を見る
のは、松江哲明監督の『SAWADA』以来でしょうか。この熊切和嘉監督の『止まな
い晴れ』
も上映時間32分の短編作品ですから、アイデア勝負みたいなところがある。

映画はいきなりアパートの浴室、下着姿の男女の描写から始まる。女(伊藤尚美)は
男(関寛之)の髪をバリカンで刈っている。やがてこの二人が夫婦であり、まもなく開
かれる同窓会に夫婦一緒に参加する予定とわかる。旦那は身ぎれいに、そして奥さ
んは少しでも綺麗になったと言われるよう、最後までシェイプアップに励んでいる。

止まない晴れ

映画を見終えてから考えれば、旦那の結婚指輪が外されていることや、同窓会の
当日に女の妹が一緒に会にやって来ることなど、それぞれが伏線となっているのだ
と理解できる。つまり旦那である男を実際に見えているのは、女と観客だけなのだ。

同窓会の場で女の“狂気”が徐々に明らかになり、会自体も収拾のつかない大騒ぎ
になっていく。他の同窓会場の客たちとの乱闘も始まり、会場は男女入り乱れて破
壊のされ放題となる。女の純情と“狂気”の混在がキラリと光る小編といえます。 

熊切和嘉監督の作品で劇場鑑賞してブログに記事にしたのは以下の3本です。
 『海炭市叙景』(2010年)
 『夏の終り』(2012年)
 『私の男』(2013年)



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