この映画は公開した直後の3月1日、「映画サービスデー」に見ようと思っていましたが、チケット完売の満員札止めで、やむなく鑑賞作品を変えることになった“因縁”の映画です。サービスデーと週末が重なったとはいえ、伏見ミリオン座での満員札止めはあまり経験することがないので、この『ネブラスカ  ふたつの心をつなぐ旅』には期待が高まります。アレクサンダー・ペイン監督のモノクロ映像のロードムービー。

  『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』公式サイト

モンタナ州に暮らしているウディ(ブルース・ダーン)のもとへ、さも100万ドルが当たったかのようなダイレクトメールが届く。それは誰が見てもインチキな手紙ですが、頑固な上にボケの兆候も出ているウディはそれを信じ、遠く離れたネブラスカまで歩いてでも出かけて、賞金を受け取るといってきかない。大酒飲みで頑固な父親だ。

それまでは頑固な父親と距離を置いていた息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)だが、老いてわがままを言う父親を見兼ねて、骨折り損だとわかりながらも、彼を車に乗せ4州にわたる旅に出ることに。その旅の途中、ウディの故郷で100万ドルの賞金をめぐる騒動に巻き込まれるのだが、このあたりの人間模様がこの映画の見どころ。

 

以前に仕事で知り合った銀行の方から、ジャンボ宝くじなどで高額な当選金(たしか300万円以上)が出るとお店の応接室に通され、高額当選金の受取り者向けの冊子が手渡されると聞いたことがある。その中の諸注意で、最初に書かれているのが、当選の事実を安易に身内・家族に吹聴しないこと、らしい。(あくまで伝聞ですから)

故郷の町に戻ったウディは、デイビッドに当選の件は誰にも言うなと釘を刺されているのに、酒場に行ってそれを喋ってしまう。寝泊りに立ち寄ったウディの兄夫婦はもちろん、以前にウディと商売をしていた仲間がこぞってかつての借金の催促をする。

あろうことかウディとデイビッドは、兄夫婦の双子の息子たちに襲われ、ウディに届いた当選の通知を奪われてしまう。しかし、それでウディの高額当選の“思い込み”がばれることになり、当選のヒーローから一転して町の笑い者になってしまうのだ。

 

ウディの故郷はネブラスカの片田舎の町で、母ケイト(ジューン・スキップ)と出会ったのもこの町だ。当選金の騒動に隠れがちだが、父と母の関係や父親の戦争体験など、この町でデイビッドが初めて知ることも多い。そして、登場シーンはさほど多くはないが、若い頃は意外に“遊び人”だった母ケイトのお喋りは大いに笑いを誘う。

この町の住人は小ぎれいな格好もしていず、欲深さを秘めた人物ばかりが寄り集まっているような感じで、田舎特有の老いや貧しさも漂う。とはいえ、その人間味に嫌悪感を持つかというと、その逆でどこかノスタルジーを感じるような味わいがある。

全編モノトーンで展開する映画は、おそらく現代が舞台なのだろうと推測はできますが、それを「いつの時代?」と疑うような人間味とノスタルジーにあふれた作品に仕上がっています。デイビッドの父親に対する優しさには感心しますが、賞金を受け取れなかった父親への彼の行為。味わい深いエンディングで、心に沁み入ります。

(2013年、監督/アレクサンダー・ペイン、脚本/ボブ・ネルソン、撮影/フェドン・パパマイケル、音楽/マーク・オートン)