1970年代前半の日本映画で忘れられない「シリーズ」ものといえば、
「さそり」シリーズがその一つ。篠原とおるの劇画を、梶芽衣子主演で
映画化。第1作の『女囚701号 さそり』は1972年夏に公開されている。
(監督/伊藤俊也、脚本/神波史男・松田寛夫)
恋人に裏切られた挙句に、冤罪によって女子刑務所に収監される
主人公・松島ナミ(「さそり」)。刑務所内では手ひどいリンチにも
合うが、その「怨み」を蓄積していき、やがて自分を陥れた男達
への復讐を果たしていく、、、
寡黙な主人公「さそり」を演じたのが梶芽衣子。従来の日本映画に
ないキャラクターを演じ、そのシャープな眼差しが印象的だった。
伊藤俊也監督の映像も、回転する室内セットや照明を駆使し、
独特の場面転換や様式美で作品にインパクトを与えた。
72年の年末に、早速シリーズ第2作『女囚さそり/第41雑居房』、
73年夏に第3作『女囚さそり/けもの部屋』と、伊藤俊也監督で
立て続けに製作。ただし、制作者側の行き詰まりも早かったようで、
監督が長谷部安春に交代した第4作で、梶主演のシリーズは終了。
それでも「さそり」シリーズへの期待は高かったのか、「新・女囚
さそり」と銘打って76年に多岐川裕美、77年に夏樹陽子が主演
し映画が作られる。ただし、いずれも単発で終わっている。
やはり梶芽衣子「さそり」のインパクトが強烈で、他の女優が
いかに雰囲気・ファッションを工夫しても太刀打ちできない。
また一方で、女優・梶芽衣子にとっても「さそり」のイメージ
から抜け出すことは容易ではなかったはずで、「さそり」後の
映画出演には、おそらく苦労されたものと思う。
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つい最近、私のブログを読んだ方から一冊の本を紹介された。
坪内祐三『一九七二 「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」』。
1972年の1年に焦点をあてた時代評論で、読み始めたばかり
だが、たいへん面白い (川瀬有希さん、おススメありがとう!)
今回お礼を伝えるために、あえて1972年の「さそり」を選びました。
- 一九七二―「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」 (文春文庫)/坪内 祐三
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