石炭の値打ち

『石炭の値打ち』公式サイト

 

久しぶりに出掛けた名古屋今池のナゴヤキネマ・ノイでの鑑賞作品は、イギリスの名匠ケン・ローチ監督が、1977年にBBCのドラマ枠「プレイ・フォー・トゥデイ」のために制作したテレビ映画『石炭の値打ち』という2部構成の社会派ドラマです。

 

1969年の映画『ケス』に続いてバリー・ハインズが脚本を手掛け、当時のイギリス社会を象徴する存在でもあった炭鉱という労働現場を舞台に、そこに生きる人々の暮らしと人生を丹念に描写た作品。ナゴヤキネマ・ノイ(シニア会員1,400円)。グッド!
 

石炭の値打ち 石炭の値打ち

 

以下は映画『石炭の値打ち』公式サイトに記載の紹介ストーリーです。

 

【第一部】チャールズ皇太子の公式視察訪問の地に選ばれたミルトン炭鉱。王室による視察訪問など無駄だと反対する労働者たち。一方でほとんどの従業員は賛成していると、炭鉱に草木を植え、ペンキで補修するなど見栄えを整えるためだけの経費も計上する幹部たち。皇太子の視察訪問に備え、右往左往しながらも当日を迎える…。

 

【第二部】皇太子の公式視察から1ヵ月後、ミルトン炭鉱で地下の爆発事故が発生する。坑内に取り残された8名の労働者たちの安否を願い炭鉱にその家族たちが集まるも二次災害の可能性でどうすることもできない。救助隊が出動し、マスコミも集まるが、経営幹部たちは責任をなすりつけ合って…。あせる

 

石炭の値打ち

 

第一部の上映時間は77分、第二部の上映時間は91分ということで本編は168分という長尺の映画ですが、上映に際しては“休憩”の入れやすい構成ともいえます。そして、皇太子の視察訪問に右往左往する人々をコメディ調で描く第一部、一転してハードでシリアスな第二部のドラマ展開という構成に、心が大きく揺れ動く作品です。グー


第1部「炭鉱の人々(Meet the People)」では、イギリス皇太子の視察訪問を控えた炭鉱町の人々が、急ごしらえの“演出”とも言えるような清掃や修繕に奔走し、労働者たちやその家族が世間体のために動員される様子が描かれる。形ばかりの体裁を促す当局と翻弄される労働者たち、ユーモアとアイロニーを交えたドラマが展開します。

そして、第2部「現実との直面(Back to Reality)」では一転してハードでシリアスなドラマが展開。死と隣り合わせの中で働く炭鉱夫たちと、その悲劇に直面した家族たちの現実をリアルに映し出す。事故後の炭鉱内の救出シーンの描写など、限られた光源の中で、ドキュメンタリー作品かと見紛うような執拗な描写が続きます。『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督はこの時代から“社会派”です。パー

 

(1977年、監督/ケン・ローチ、脚本/バリー・ハインズ、撮影/ブライアン・テュファノ、美術/マーティン・コリンズ、編集/ロジャー・ウォー

石炭の値打ち

 


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栄光のバックホーム 映画

『栄光のバックホーム』公式サイト

 

2013年のドラフト会議で阪神タイガースに 2位指名され、背番号 24を背負う若きホープとして将来を期待されるも、21歳で脳腫瘍を発症した横田慎太郎。引退を余儀なくされた彼が最後の試合で見せた“奇跡のバックホーム”は、スポーツニュースの枠を越え、野球ファンのみならず、多くの人々の心を揺さぶる話題になりました。

この映画『栄光のバックホーム』は、横田選手の自著「奇跡のバックホーム」と、彼が 2023 年に 28歳でその生涯を閉じるまで、家族と共に闘い続けた人生の軌跡を描いたノンフィクション「栄光のバックホーム」が原作。「幻冬舎フィルム」の第一回作品としての映画化です。ミッドランドスクエアシネマ(シニア当日1,300円)。グッド!

 

栄光のバックホーム 映画 栄光のバックホーム 映画

 

以下は映画『栄光のバックホーム』公式サイトに記載の紹介ストーリー(一部)です。

 

2013年のドラフト会議で阪神タイガースに2位指名された横田慎太郎(松谷鷹也)、18歳。甲子園出場を逃すもその野球センスがスカウト(萩原聖人)の目に留まり、大抜擢された期待の新人だ。持ち前の負けん気と、誰からも愛される人間性で厳しいプロの世界でも立派に成長を遂げていく慎太郎。アップ

 

2016年の開幕戦では一軍のスタメン選手に選ばれ、見事に初ヒット。順風満帆な野球人生が待っていると思われたその矢先、慎太郎の体に異変が起こる。ボールが二重に見えるのだ。医師による診断結果は、21歳の若者には残酷すぎる結果だった。脳腫瘍─。その日から、慎太郎の過酷な病との闘いの日々が始まる。――

 

栄光のバックホーム 映画

 

しかし、そのリハビリの間、慎太郎は孤独ではなかった。母親のまなみ(鈴木京香)ら家族、恩師やチームメイトら、慎太郎を愛してやまない人たちの懸命な支えが彼の心を奮い立たせるのです。そして2019年9月26日、迎えた引退試合で慎太郎が見せた“奇跡のバックホーム”は人々を驚かせ、スタジアムを大きな感動に包みます。クラッカー

 

しかし、本編のドラマとしての“奇跡のバックホーム”は前半で終わり、それ以降は彼が亡くなる2023年夏までの闘病の様子や社会活動、それに伴う家族のサポート、特に母親まなみの信頼と献身がドラマとして重きをなします。慎太郎を演じた松谷鷹也も好演していますが、母親を演じた鈴木京香の佇まいはそれ以上に“主演”でした。

 

ここからは蛇足的な記述です。慎太郎が在籍した当時の阪神タイガースの面々。金本監督の加藤雅也、平田2軍監督の大森南朋は許容できますが、川藤幸三役に柄本明、掛布雅之役に古田新太というのは、すぐには理解できませんでした。ドラマ全体が湿っぽくならないようなキャスティングを意図したとしたら、狙いを果たしています。パー

 

(2025年、企画・監督・プロデュース/秋山純、脚本・原作/中井由梨子、原作/横田慎太郎、製作総指揮/見城徹、依田巽、撮影/百束尚浩、美術/部谷京子)

栄光のバックホーム 映画

 


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12月の前半に久しぶりに出掛けた岐阜・柳ケ瀬のロイヤル劇場。上映2週間の企画タイトルは「実在の事件をベースに描く、慟哭のサスペンス」となっており、私が見に出掛けたのは第1週に上映された、伊藤俊也監督がメガホンを取った映画『誘拐報道』

 

幼児誘拐事件を通して浮き彫りにされる、犯人とその家族、被害者の家族、警察及び報道関係者の姿を描いた作品で、1982年の公開の2年前、宝塚市で起きた学童誘拐事件が題材になっています。原作は読売新聞大阪本社社会部・編の同名ドキュメンタリーで、劇中でも“読売新聞”として登場します。ロイヤル劇場(料金は一律600円)。

 

誘拐報道 映画

 

宝塚市の私立小学校1年の三田村英之が誘拐され、犯人から小児科医の父と母に身代金の要求がある。各新聞社には「報道協定」の要請があるものの、各社は協定解除に向けた準備をするべく精力的に取材を進めます。 最初の身代金の指定場所の河原には英之のランドセルがあり、警察への通報に気付いた犯人からは再度の脅迫電話が…。

 

事件を起こした犯人・古屋数男を演じるのは萩原健一。気が弱いくせに見栄っ張りで娘の香織を私立小学校に通わせているが、経営していた喫茶店をだましとられ、今は妻・芳江(小柳ルミ子)の稼ぎで食いつないでいる。犯行を行った直後には布団袋に入れた英之を断崖から投げ棄てようとしますが、実行することはできません。

 

そして、最初は殺そうと思っていた英之に食べ物を与え接しているうち、だんだん情が移っていく。次の指定場所の喫茶店では店内の刑事に気付いて諦め、次に指定した空港でも刑事が目撃されて接触出来ない…。やがて誘拐した英之と娘が仲良しだったと知り愕然とするが、そのうち英之が寒さと疲労で高熱を出してしまう…。 あせる

 

誘拐報道 映画

 

誘拐を実行した犯人のある種の“優しさ”が、事件を最悪な結果に招かなかったことになります。小銭を用意して公衆電話から英之の自宅へ電話をする犯人の様子が、次第に焦りと苛立ちに満ちてきますが、このあたりの萩原健一の演技はさすがに上手いです。また、このダメンズの夫を支える妻役の小柳ルミ子も見事な女優ぶり。ビックリマーク

 

この映画は公開された1982年に劇場鑑賞しています。ショーケンと小柳ルミ子の夫婦役の他にあまり記憶に残っていませんでしたので、三波伸介が登場したのは嬉しくてビックリ。そういえば共演にはなりませんでしたが、伊東四朗も誘拐犯を追う側の警察官として出演していました。(※三波伸介さんの命日は1982年の12月8日です)

 

報道協定は解除され、マスコミに追われるように芳江と香織は丹後の義母の家に向かうことになるエンディング。この丹後半島のひなびた港町の風景が印象的な本編ですが、どこかで“既視感”がある。今年の夏に同じくロイヤル劇場で鑑賞した『男はつらいよ あじさいの恋』はいしだあゆみ追悼上映でしたが、彼女の故郷が丹後の港町。「あじさいの恋」は1982年8月の公開、この『誘拐報道』の公開は翌9月です。パー

 

(1982年、監督/伊藤俊也、脚本/松田寛夫、撮影/姫田真佐久、録音/林鉱一、照明/山口利雄、美術/今村力、編集/戸田健夫、音楽/菊池俊輔

誘拐報道 映画

 


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メーサーロシュ・マールタ監督特集 エルジ

「メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」公式サイト

 

ハンガリーを代表する映画監督のメーサーロシュ・マールタ。1975年、映画『アダプション/ある母と娘の記録』で、女性監督として初めてベルリン国際映画祭の最高賞を受賞したメーサーロシュですが、同作を含む5作品が日本でようやく公開されたのは2年前の2023年。それは今回の特集上映に先行する“第1章”ともいうべきものです。

 

今回はその長編デビュー作から代表連作まで、新たにレストアされた7作品を日本で劇場初公開する「メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」。私が鑑賞したのは長編デビュー作『エルジ』です。劇場は伏見ミリオン座(シニア会員1,200円)。グッド!
 

メーサーロシュ・マールタ監督特集 エルジ

『エルジ』(1968年、監督・脚本/メーサーロシュ・マールタ、撮影/ソムロ・タマーシュ、出演/コヴァーチュ・カティ)

 

以下は「メーサーロシュ・マールタ監督特集  第2章」公式サイトに記載の映画『エルジ』の紹介ストーリーです。

 

児童養護施設で育ったエルジは、24年ぶりに小村で暮らす実の母を訪ねる。再婚していた母は、娘の来訪に戸惑い、彼女を姪と偽って新しい家族に引き合わせた。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、行きずりの男と交際しながら、鬱々と日々を過ごす。あせる

 

ある日、素性の知れぬ中年男性がエルジの前に現れ、「君の両親は死んだ」と告げる。
長編デビュー作であり、のちに繰り返し描かれる“養子”をテーマとした自伝的作品。

 

メーサーロシュ・マールタ監督特集 エルジ


児童養護施設で育った主人公エルジは24年ぶりに、小さな村で暮らす実母を初めて訪ねます。再婚していた母は娘の来訪に大きな戸惑いを見せ、彼女を姪と偽って新しい家族に紹介する。その関係を明らかにすることもなく、居心地の悪い雰囲気の中でいた畳まれなくなったエルジは、こっそりと母の暮らす家を出て街に戻ります。DASH!

 

家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、行きずりの男と交際しながら鬱々とした日々を送ることに…。そんなある日、見知らぬ中年男性がエルジの前に現れ、彼女の両親が死んだことを知っていると、あらためて“物語”を語り始めます…。

 

監督メーサーロシュが第二次世界大戦下のハンガリーで、どのような日々を送ったのか。声高に語るわけではないのですが、家族関係の崩壊があったことを“娘”の視点から生々しく捉えた本作を見ると、一筋縄ではいかない歴史の実態が背景にあることは推察できます。今の家族の中でも終始怯えるような母親の様子は気になります。パー
 

メーサーロシュ・マールタ監督特集 エルジ

 


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2025年も残すところ2週間ほどになりました。“サンデー毎日”の私ですから、来年の年賀状は12月早々に作り、今週になって投函も終えています。12月も半ばを過ぎましたので、当月前半の映画鑑賞のまとめですが、12月の前半に劇場スクリーンで鑑賞した作品は以下の11本です。今年の「マイベストテン」の選出も大方終えました。

 

 @伏見ミリオン座

『兄を持ち運べるサイズに』(2025年、監督/中野量太)

『佐藤さんと佐藤さん』(2025年、監督/天野千尋)

『殺し屋のプロット』(2023年、監督/マイケル・キートン)

『ジャグラー ニューヨーク25時』(1980年、監督/ロバート・バトラー)

『エルジ』(1968年、監督/メーサーロシュ・マールタ)

 @ミッドランドスクエアシネマ

『ナイトフラワー』(2025年、監督/内田英治)

『シザーハンズ』(1990年、監督/ティム・バートン)

『栄光のバックホーム』(2025年、監督/秋山純)

 @ミッドランドスクエアシネマ2

『ペリリュ― 楽園のゲルニカ』(2025年、監督/久慈悟郎)

 @ロイヤル劇場 <岐阜> 

『誘拐報道』(1982年、監督/伊藤俊也)

 @ナゴヤキネマ・ノイ

『石炭の値打ち』(1977年、監督/ケン・ローチ)

 

ジャグラー ニューヨーク25時

『ジャグラー ニューヨーク25時』公式サイト

 

伏見ミリオン座での上映開始が楽しみだった映画『ジャグラー ニューヨーク25時』

ニューヨークの街を舞台に、目の前で娘を誘拐された父親の命懸けの追跡劇をスピード感と臨場感たっぷりに描写した作品。アメリカの作家ウィリアム・P・マッギバーンの原作小説を、テレビドラマ「刑事コロンボ」などのロバート・バトラーが監督。

 

1980年に日本で劇場公開されカルト的人気を誇るものの、権利問題から長らく鑑賞が難しく、配信はおろか1980年代に一度VHSが発売されただけの幻の作品。今回は4K修復版にてリバイバル上映。劇場は伏見ミリオン座(シニア会員1,200円)。グッド!

 

ジャグラー ニューヨーク25時 ジャグラー ニューヨーク25時

 

以下は映画『ジャグラー ニューヨーク25時』の公式サイトに記載の紹介ストーリーです。

 

70年代の終わり。まだ危険で猥雑だった頃のニューヨーク。それはいつもと変わらない平凡な朝の風景のはずだった。シングルファザーの元警官ボイドは、学校に送る途中の娘キャシーを、富豪の娘と人違いしたサイコな誘拐犯に連れ去られてしまった。

 

警察はアテにならないばかりか、ボイドに恨みを持つ元同僚のイカれた巡査部長バーンズからは逆に追われるハメになる…。タクシー運転手、ポルノショップの女、不良グループ、動物登録所の娘…。都会に生きる様々な人々が入り乱れ、ノンストップの奪還劇が始まった ビックリマーク

 

ジャグラー ニューヨーク25時


元警察官のトラック運転手ボイドは妻と別れて以来、ひとり娘のキャシーと2人で暮らしている。キャシーの15歳の誕生日、ボイドはバレエ公演のチケットをプレゼントし学校へ行くキャシーをセントラルパークまで送る。いつも通りの平穏な一日が始まるはずだったが、突如としてキャシーが見知らぬ車に引きずり込まれてしまう。DASH!

 

目の前で愛娘を誘拐されたボイドは必死に後を追うも、最後は車の横転事故により病院に搬送されることに…。この作品前半のニューヨークの街中で展開するカーアクションは、なかなか派手でさらに執拗に展開し、見ごたえ十分です。警察の捜査が進展しない様子に苛立ちを覚えたボイドは、病院を抜け出し独自に犯人を追跡する。

 

主人公のボイドを演じるのは映画『カプリコン・1』(1977年)のジェームズ・ブローリン。体を張った追跡劇を見せる本編では、全編ニューヨークでロケ撮影が敢行されています。ゲリラ的な撮影が行われたのではと訝るような、CGとは無縁の時代の生身の人間によるアクションシーン。その生々しさを愉しむことができる作品です。パー

 

(1980年、監督/ロバート・バトラー、脚本/ビル・ノートン・Sr.、リック・ナトキン、原作/ウィリアム・P・マッギバーン、撮影/ビクター・J・ケンパー)

ジャグラー ニューヨーク25時

 


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