俺はこー見えて学生時代は割と"優等生"だったので、受けた試験や審査で「不合格」「不採用」など「不」が付くものを突きつけられた経験が無いに等しい。つまり大体のものは一発でパスしてきたので"落ち"慣れしていなかったのだ。

だからメールで届いた人生初の「不採用通知」には少なからず衝撃を受けた。「社内で慎重に検討を重ねましたが~」「イワモト様の今後のご活躍を~」というテンプレ文が白々しくイヤミのように効いてくる。首筋がチリチリとヒリつく感じ。「まさか落ちるとは」とまで自惚れてはいなかったと思うが、想像以上にショックは大きかった。足を棒にして何十軒もの会社を面接で巡り、そのことごとくで撃沈を繰り返したという「氷河期世代」の心労は一体如何ほどのものだったのだろう。

 

まあ、いい。落ちたもんはしょうがない。

「おたくの会社に入れてくだしあ~~ライター希望っす~~最終学歴?デュフフ自動車整備の専門学校ですがなにか~~広報の経験も無いっす~~フヒッ、あ、歳は53です~~職歴?鈑金屋一筋でそれ以外はやったことないっす~~いえいえライター希望ンゴ~~」なんて奴、雇う側から見ればリスクが大き過ぎる。俺でも雇わん。

とり急ぎ乱れた心の均衡を保つため、その某地域情報誌はその場でクルクルと丸め、ゴミ箱に豪速球で投げ捨てた。おのれき●ら編集部!過去に2度も広告出してあげたのにっ!いいもんもっとイイ会社見つけて見返してやるんだから!(フラれた女か)

一番のネックはやはり年齢だろうか。なんせちょっと目を凝らせば還暦が見えているのだ。しかしこの部分は改竄のしようがないのでせめて自己アピールの欄を盛ったつもりだったのだが、そんなもんいくらテキストで書き連ねたところで説得力は無いだろう。とにかくこの履歴書から見えてくるのは、「学歴もなく30年以上クルマしか触ってこなかったくせに厚かましくもライターとか希望してくる身の程知らずなジジイ」の姿だけなのだ。ウン俺でも雇わん。

履歴書の改良が必要だ。畜生、次は負けん。

 

その次の候補を見つけるまでが、なかなかの苦戦だった。

調べてみれば広報・ライターの募集などは想像よりずっとたくさんあった。しかし通勤先が絶望的に遠かったり、在宅で一記事1000円程度の歩合制(契約社員)だったり、VTuberだったり。なんか違う。

気ばかり焦って、二度目の認定日の就職相談で「あのフィットネスクラブの募集、まだありますかね?」と確認したくらいだ。

 ───「その会社」を見つけたのは、ほんの偶然だった。気まぐれにインストールした就活アプリで地域検索をしていて最初にヒットしたものだった。

まだ昨年開業したばかりの新しい会社である。ただ―――あろうことか「クルマ」の会社であった。募集ページでは「広報・グッズの企画」と書いてあったので殆ど反射的にポチってしまったのだが、後になってよく調べてみたらキャンピングカーやSUVの中古車販売やレンタルを扱う会社だということが判った。

……クルマ関係は出来るだけ避けたかったのだが、あくまで「広報」の募集だしまあイイか……と、履歴書の準備をすることにした。

 

前回の敗因を踏まえ、自分の過去の「実績」を文章ではなく出来るだけ目に見える形で盛り込むことにした。

つまり百鬼夜号や過去のエアブラシ作品、チラシに描いた自作の漫画、罰ゲーム用に作ったエロTに至るまで―――自分が身一つで「やろうと思えば出来ること」を写真付きで詰め込んだ。読んだ誰もが「コイツ一体ナニ屋さん??」と思えるほどには、節操の無い作品集になったと思う。

 

 

よーし、これで勝負だ。

絶対、俺という人間に興味持たせてやる。

俺を落としたあの編集部に、その判断を後悔させてやる。(しっかり根に持っている)

 

 

 

 

 

 

(続く)