警察に捜査協力するとお金が貰えるなんて。

 

 

 

 

先月、再就職先初出勤日の夕刻。

帰宅中に目の前で大事故に遭遇した。

 

右は川、左は山の緩やかなカーブ。見通しは決して悪くない。

そんな道で、俺の前を走っていた黒い軽自動車があろうことかセンターラインを越えて直進。運悪く対向車線を走っていた青い軽自動車にノーブレーキ・ジャストミートで突っ込んだ。インパクトの瞬間は両車両とも大きくケツを浮かす、絵に描いたような正面衝突。思わず声が出た。

路肩にアリス号を停め、取り急ぎドラレコの通報ボタンからコールセンターに場所と救急車の手配を伝える。怪我人の数を聞かれたので被害状況を確認するため一旦車を降りて現場に駆け寄った。

青い軽の方から足を引き摺るように小学生くらいの男児が降りてきて、道路脇の縁石に座った。足に軽い擦過傷が見られるが意識はハッキリしている。運転していた父親とおぼしき男性も無事だ。一番ヤバかったのは後部座席にもたれ意識が茫漠としている中学生くらいのお兄ちゃんの方だ。顔面血だらけ。おそらくシートベルトしていなかったのだろう。すぐに救急車が来ることを伝え、車内に戻ってコールセンターに状況を報告した。何ともタイミング悪いことに小雨が降りだした。俺は傘を差し、道路脇に座る少年の頭上に掲げた。「お兄ちゃんは大丈夫だから」と声をかけ、パトカーと救急車の到着をやきもきしながら待った。

帰宅ラッシュの時間。両車線とも次々と後続車がやってくるが、事故車や散らばる破片で完全に道路が封鎖されているので長い渋滞の列が出来始めている。近辺でただ一つの民家から老夫婦が出てきたが、事故の瞬間の目撃者はどうやら俺以外には居なかったようで、今動けるのは俺と―――2分くらい遅れて俺の後ろにやってきた赤い車の若者だけだ。

二人で二手に分かれ、警察が来るまで交通整理をする。上手い具合に現場のすぐ近くにUターンして元来た道へと迂回できる脇道があった。渋滞の車列を取り急ぎそっちへ誘導する。程なくサイレンが聞こえ、3台のパトカーと二台の救急車がやってきた。怪我人は次々と搬送されていった。命に別状は無いように見える。よかった。

…もっともこれで御役御免になるわけもなく、唯一の目撃者として長く事情聴取を受ける羽目となった。その場で警官と共にドラレコの録画を確認したが、20mくらい離れてダラダラ追従していた割には鮮明に全ての事象が記録されていた。くれぐれも車間とっておいて良かった。つくづく大きな声で歌ってなくて良かった。当然そのメモリーカードも証拠品として提供した。

予定より2時間遅れての帰宅と相成った。

 

 

その数日後メモリーカード返却のために一回、最終的な証言取りのためにもう一回、警察署に出頭することとなった。

2回目の時は実際テレビでしか見たことのなかった「取調室」の中で、資料を確認しながら長い取り調べを受けた。なんだか俺が悪いことしたかのような気分になったが、俺のこの証言はドラレコの録画と共に裁判にも提出される重要な資料となるので慎重に事細かに確認を取られた。案外、自分の当時の記憶や印象って曖昧なことに気付かされた。

 

終わった後、担当警官の方から封書を渡される。

「…何すかコレ?」

捜査に協力してくれた方への御礼です

えええええそんなん貰えるものなんですか!?知らんかった!!」

「領収書に署名と捺印だけよろしくお願いします」

事前にハンコ持ってくるように言われていたのはコレだったのか。

 

なんにしてもこりはありがたいいちまんえん。

これで家族を一回メシに連れて行ける。

 

 

 

 

 

 

誰かもう一回俺の目の前で事故ってくんないかなぁ。(思ってても言うな