文化庁の文化審議会漢字小委員会が、今年2月に

発表した漢字文字に関する指針では、手書き漢字

で「とめ、はね」等に細かい違いがあっても誤りでは

なく、多様な字形が認められるとされました。


報告書は、2136ある全常用漢字の字形例が示しな

がら、漢字の「とめ、はね、はらい」の他、線の長短

や方向等、字形の違いがあっても、文字の骨組みに

あたる字体の違いがなければ誤りと判断することは

できないとしています。


実は、文科省(文部省)では1949年の「当用漢字字体

票」以来、漢字の字体、字形について、その文字特有

の骨組みが読み取れるのであれば誤りとしないとし

てきました。現に2010年の文科省通知でも、「児童

生徒が書いた漢字の評価については、指導した字形

以外の字形であっても、指導の場面や状況を踏まえ

つつ、柔軟に評価すること」とし、「とめ、はね」等の

違いがあっても誤りとしないことを求めています。


では、漢字細部へのこだわりが始まったのはいったい

いつ頃のことでしょうか?それは、1960年代初頭だと

言われています。


戦後まもない時期、教科書ごとに使用された漢字の

字形はバラバラだったそうですが、1961年の文部省

通達により字形統一が図られます。すると、小中学校

等の教育現場で教科書字形を絶対視した、細部にこ

だわった指導が始まったのです。教科書文字に合わせ、

「木」の2画目の縦棒ははねてはならない、「天」は上

の横棒が長くなくてはならない等です。


しかし、これは教科書用印刷文字の字形統一がなさ

れただけで、その字形だけが正しいとした指導は無理

があります。印刷文字の漢字も手書き文字の漢字も

同じ字体を備えていれば、漢字としてはどちらも正しい

のですから。


なお、1961年に統一したというものの、教科書ごとに

微妙な差が残っており、1977年に完全な字形統一が

なされるまで、使用教科書によって正しいとされる漢字

字形が異なるという矛盾も生じています。


ある県の公立高校入試では、「招」の手へんがはねて

おらず誤答(全体の5.7%)、「慣」のりっしんべんがはね

ていて誤答(同5.4%)とされる等、受験生にとって切実

な問題であることは間違いありません。


整った読みやすい漢字を心がけることは大切である

ことは言うまでもありませんが、とめ、はね等に細かい

違いがあっても誤りでなく、多様な字形が認められると

いうことを、入学試験の評価や学校教育の指導にあた

る学校関係者へ周知徹底させることが必要です。