体外受精の保険適用後の変化として、胚盤胞の2個移植が増加しています。

 このまま行きますと2023年の双胎出産が増えるか、もしくは胚移植当たりの妊娠率が上昇するだけで、双子(双胎妊娠)の数はそれほど増えないかもしれません。

 私は、妊娠率が向上し、双子の数はそれほど増えないと、予測しています。その理由は、日本産科婦人科学会は10年以上にわたり”移植胚数に関する会告”を改定していません。単一胚移植と、確たる理由もなく、40歳以上であっても、45歳以上でも、単一胚移植、とお経のように唱えています。アメリカでは”着床前診断を実施した胚は1個移植しなさい”と指導していますが、年齢に応じて、移植できる胚の数を増やしています。またガイドラインについても数年ごとに改定しています。

 日本では日産婦が10年以上も、お経のように単一胚移植と唱えていますが、医師の方は既に高齢の方もしくは反復不成功の方にも、2個胚移植が普通に行われています。それでも日本の多胎率は2%前後にとどまっています。

 ところが、今回の保険適用では胚移植の回数制限(年齢により異なる)が設定されましたから、回数制限が胚盤胞2個移植の増加をもたらしています。これは当然の結果だと思います。

 考えてみて下さい。40歳以上の患者様(保険での移植回数は3回までと決まっています)で、4個の凍結胚があれば、どうされるでしょうか。1個ずつ移植すれば4回の胚移植が必要です。最初の3回は保険で胚移植が可能ですが、4回目は自費となります。ところが、2個ずつ移植すれば、胚移植は2回で終わり、保険で1回の採卵が可能となります。あなたなら、どうされますか?

 40歳代の妊娠率を考えれば、40歳代の方であれば2個移植(双子のリスクはあります)を選ばれると思います。すでにお子様のおられる方は別です。

 もう一つの理由が、凍結胚があれば保険適用では採卵ができないという決まりがあります。ですから、まず手持ちの凍結胚をなくす必要があります。もし、妊娠の可能性が極めて低い(グレードがかなり悪い)凍結胚をお持ちでしたら、その胚を廃棄して保険の採卵に進むのも、一つの方法だと思います。決してこの方法をお薦めしているわけではありません。

 

 私は、健康保険適用における年齢制限と回数制限には反対です。国民皆保険の精神にも合いません。癌で手術をして再発すれば何度でも保険が使えます。何歳になっても病気になれば保険が使えます。これが国民皆保険の原則です。

 

 私が制度をけなすばかりで何もしないではないか、とおしかりを受けるのですが、残念ながら私には保険制度について意見を述べる力は全くありません。私はその点においては全く無力であることをご了承ください。

 

 回数制限などを設けるから、回数内で済まそうということで、多胎が急増するかもしれません。とくに40歳代では使用できる回数が3回と少ないですから。

 順当に考えれば、年齢が大きくなれば、妊娠が難しくなるのですから、使用可能回数を増やすべきと考えるのですが。

 いずれにしても、保険の回数制限が、思わぬ結果を招く可能性は十分にあります。政府は、今回の保険適用の結果による、多胎率などを見て、保険の回数制限や年齢制限の撤廃を考えていただきたいと思います。