凍結保存後の精巣から精子回収し妊娠成功(サル) | 不妊治療クリニック院長の福田愛作のブログ

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大阪府東大阪市にあるIVF大阪クリニックは不妊治療専門クリニックです。「心と身体を癒す医療」をテーマとしています。

凍結保存後の精巣から精子回収し妊娠成功(サル)と題した新聞報道がありました。

その要旨は、以下のようなものです。 
 がん生殖に新たな光です。まだ精子をつくれない若いサルの精巣を凍結保存し、一定の期間保存したのちに同じサルに移植して、また一定期間後に精巣から取り出し、子どもを誕生させることに、米国などの研究チームが成功したと発表しました。小児がんの治療で不妊になる危険性のある男児が、将来自分の子を得られるようにする技術、すなわち妊孕性温存につながる技術になる可能性があります。同じサルに移植し、子どもが誕生したのは世界初ということで、この成果は22日に米科学誌サイエンスに掲載されるということです。
 これまで、どちらかと言えば女性の卵子や卵巣組織の冷凍保存が妊孕性温存の手段として注目されていました。今回は精巣です。男性においても、がんの化学療法や放射線治療などで、精子の元になる細胞が影響を受け、不妊になる可能性の高いことは知られています。
 このチームは、まだ精子をつくれない若いアカゲザル5匹の片方の精巣を取り、小さく切り分けて凍結保存。5~7カ月後に元のサルの陰のうや背中の皮下に移植しました。8~12カ月後に手術により精巣の一部を取り出し、その移植片から生きた精子を取り出しました。人の治療で行われる精巣精子顕微授精と同じ方法です。今回は、一度凍結された幼い精巣(凍結された時点では精子の生成は開始していませんでした)を移植して、その後に発育した精巣から、精子を取り出し138個の卵子と顕微授精を行いました。発育した受精卵(胚)11個をメス6匹の子宮に戻し2018年4月に、健康なメスのサル1匹が生まれたということです。このチームは、人間に応用できる可能性をさぐりつつ、安全性の検証のためさらなる研究が必要としているそうです。

 私たちもがん生殖に力を入れ、がん治療前に卵子や精子、そして受精卵の凍結保存による妊孕性温存治療を実施しています。男性の場合、精子凍結なので比較的簡単なように思われると思います。確かに、成人男性であれば、ある程度の体力が残っていれば、そんなに難しいことではありません。
 問題はお子さんの場合です。小児期のお子さんでは、自分で精子をとることができなかったり、まだ精子が生成される以前であることもあります。そのような場合に、精巣を凍結保存できれば、がん治療が終わった後に、また同じ人の体内に移植することができます。ただ、その精巣組織ががん細胞で汚染されていないかなどの問題はありますが、将来楽しみな治療法だと思います。乞うご期待です。

 IVF大阪クリニックでは、5月25日(土曜日)午後4時から、当クリニック近隣の医療機関のがん専門医のドクターにお集まりいただき、がん治療と妊孕性温存に関するセミナーを開きます。より多くのがん治療の専門家にも「がんと聞けば妊孕性」と考えていただけるように、との思いから開催します。
 これは医療関係者の皆様だけの会合ですので、申し訳ありませんが、一般の方は参加できません。ご希望があれば、患者様のためにも、このようなセミナーを開催したいと思います。