不妊治療における運動の重要性:”骨”が出す!最高の若返り物質

 よく患者様からこんなことを聞かれます「じゃあ、次の治療まで何か自分で出来ることはありませんか?」。私の答えはいつも同じです。「美味しく楽しく暮らしてください。それから、運動を心掛けてください」「朝陽を浴びる散歩など最高ですよ」と患者様に答えます。

 運動は骨に刺激を与えるために、若返りを起こします。楽しく美味しく暮らせば身体によいのは当り前です。それに朝日に当たれば日内リズムが整い、睡眠もよく取れます。良い睡眠は内分泌環境を良くし、結果としてより良い卵子、より良い精子の元となります。

 

 そこで、今日の話題は骨です。骨なんて、単に体を支える棒っきれだと思っていませんか?

 ところが、骨の中にはたくさんの細胞がうごめき、なんと体全体の“臓器を若くする”ための「特別な物質」を出していることが、最新の研究でわかってきました。

 私たちの骨は常に作り替えられていて、大人では3~5年で全身の骨が入れ替わります。新しく強い骨を維持することで、疲労骨折などを防ぐためです。この作り替えを行っているのが、骨の中にいる細胞、骨を壊す「破骨細胞」と骨を作る「骨芽細胞」です。この二種類の細胞の作り替えのバランスが崩れて起きるのが更年期などにみられる「骨粗しょう症」です。

 では細胞たちはどうやってバランスをとっているのか?実は、作り替えのペースを指示する、いわば建設現場監督となる細胞がいます。「骨細胞」です。骨細胞は「メッセージ物質」といわれる特別な物質によって作り替えの指示を出します。その内容は「骨を作ろう!」「骨を壊そう!」など。スクレロスチンは、骨細胞が出すこのメッセージ物質の一つで「骨を作るのをやめよう!」というちょっと変わった内容のメッセージです。骨細胞は骨の量が増えすぎないように、スクレロスチンによって、骨を作る「骨芽細胞」の数を減らします。ところがスクレロスチンが出過ぎてしまうと、骨量が減ってしまうのです。

 なぜそんな異常事態が起きるのか。実は骨細胞には「骨にかかる衝撃を感知する」という働きもあり、衝撃があるかないかによって、新しい骨を作るペースを決めているのです。骨に「衝撃」がかからない生活(運動不足の生活)を続けていると、骨細胞が「スクレロスチン」をたくさん出して、骨芽細胞の数を減らし、骨の建設を休憩させてしまうのです。つまり運動をしないで一日の大半を座って生活している現代人は、スクレロスチンが大発生し、知らないうちに骨粗しょう症が進行している可能性があるのです。

 骨の建設が滞り、骨粗しょう症になると骨折しやすくなります。たとえば大腿骨を骨折すると、歩行の自由を奪われ、寝たきりになってしまう高齢者も多くいます。

 しかし骨量減少で本当に怖いのは骨折ではありません。「若さを生み出すメッセージ物質」が途絶えてしまうことだと指摘されています。

 骨芽細胞が出すメッセージ物質「オステオカルシン」は骨の中から血管を通じて全身に届けられ、「記憶力」「筋力」さらには「生殖力」まで若く保つ力があることがわかっています。例えばオステオカルシンがないマウスでは、位置を記憶する能力が衰えたり、精子の数が半分近くまで減少してしまうことが実験で確認されています。骨芽細胞といえば骨を作る細胞ですが、その細胞が、若さを生み出す驚きのパワーを持っていることが明らかになっています。

 骨細胞に十分な刺激をかけない生活を続けることのリスクは骨量不足だけではなく、骨芽細胞が発するメッセージ物質の減少によって全身老化を進めてしまうことなのです。

 骨量は25歳くらいを過ぎると、加齢のために減少していきますが、それでも意識的に運動で骨に刺激を与えると、スクレロスチンの値が下がり、骨量を上げることができるのです。

 骨芽細胞が活性化すれば、若さを生み出すメッセージ物質のパワーで、体全体の機能を若く健康に保つ事も期待できます。骨は単なる棒っきれではなく、活動的に動く体を、メッセージ物質によって応援してくれる、そんな仕組みを備えた立派な臓器なのです。

 どうです、みなさま、不妊治療においても運動の重要性がお判りになったと思います。運動することは、このように骨を通じても若返りをもたらしますが、ストレス解消にも打って付けです。このニューノーマルの時代、青空のもと散歩やジョギングは一石二鳥どころではありません、一石三鳥四鳥の効果がありそうです。一に運動、二に運動です。