こんばんは!KInoshitaです。
不妊症の方にはあらゆる壁があります。
その一つに受精という壁があります。
採卵で卵子は取れる、ご主人様も精子を出すことができる。
しかし、受精卵がなかなかできない・・・・
しかも、顕微授精をしているのに異常受精と言われる・・・
””受精障害””
で悩まれている方もおられると思います。
受精障害で悩まれる患者様が原因検索をされることで、最近わかってきたことがあります。
それが、自己抗体(抗核抗体)と受精障害の関係についてです。
当院では、体外受精開始前に必ず自己抗体検査(抗核抗体検査)を行っております。
この検査を始めてから、今まで原因不明とされた重度の受精障害を事前にチェックすることができる様になりました。
ではまず最初に自己抗体について簡単に説明していきましょう。。
わたしたちの体は、細菌が侵入すると、細菌を排除するための物質である抗体を作り、体を防御する仕組みがあります。
通常、抗体は自分自身を守るために作られますが、何らかの原因によって自分自身の正常な細胞を攻撃してしまう抗体を作ることがあります。このような抗体を自己抗体と呼びます。
以前ブログでも紹介しましたが、
甲状腺に対する自己抗体である抗甲状腺抗体が体の中で作られてしまうと、バセドウ病や橋本病を発症してしまうことがあります。
しかし・・
自己抗体が体の中で作られたからといって病気とは限りません。
自己抗体が体内に存在していたとしても自己抗体の量(抗体価)によって、症状が出たり出なかったりします。
何からの症状が体に出て初めて、自己免疫疾患(例えばリウマチ・SLE・強皮症など)と診断されます。
ここから本題に入りましょう!!
近年、受精の原因とされる自己抗体が報告されています。
それが抗セントロメア抗体です。
正常な受精卵では、父親由来の雄性前核と母親由来の雌性前核の合計2つの前核が観察されます。
体外受精をしている方であれば、自分の受精結果のプリントを確認してみて下さい。
しっかりと受精チェックをしているクリニックであれば、採卵翌日の欄に2PNとか正常受精卵という表記があると思います。
しかし、この受精の現場で異常事態が起きてしまうことがあるんです!!!
3つ以上の前核が観察される受精卵を多前核形成卵といい、異常受精卵扱いとなり移植の対象となりません。
抗セントロメア抗体が陽性かつ抗体価の高い方は、この多前核形成率が高くなるという報告があります。
セントロメア抗体が陽性の場合、自己抗体が640倍以上になることが多く、
この640倍以上になると異常受精が多くなる方をたくさん見てきました。
では、このセントロメアについても説明しておきますね。
ここ難しいかも。生物の授業が嫌いだった人はこの段落だけ流し読みして下さい。
セントロメアとは、染色体の中央に位置する部分のことで、細胞は分裂するときに紡錘体がセントロメアに結合します。
このセントロメアと紡錘体の結合が上手くいくと、分裂する細胞の中にある染色体が均等に分配され、正常な細胞分裂ができると考えられています。
抗セントロメア抗体は、
細胞分裂時に染色体が均等に別れるのを阻害し、多前核形成率が高くなると考えられています。
抗セントロメア抗体陽性で受精障害となる方は、
異常受精卵(多前核形卵成)率が高いために得られる正常受精卵が圧倒的に少なくなります。
現在、セントロメア抗体における異常受精率を下げる有効的な治療法は明らかではありません。
しかし、
私は、抗セントロメア抗体高度陽性(1280倍)でも数少ない正常受精卵を移植して妊娠出産された患者さんを経験しています。
より多くの卵子を最短で効率的に採取して、その中から1つでも多くの正常受精卵を得ることが最も重要です。
・強皮症の診断を受けた方で現在子供を考えている方
(強皮症の方にセントロメア抗体を持つ人が多いんです。)
・体外受精を開始して異常受精が多い方
・受精卵が確保できない方は、
抗核抗体(抗セントロメア抗体)のチェックと共に、セントロメア抗体陽性での妊娠例がある不妊治療専門施設へなるべく早くご相談されることがベストです。
当院の体外受精事前チェックでは全ての検査に大切な意味があります。
治療を開始する前にその方のリスクを事前に推測し、その方に合わせた治療プランを提案する。
””治療の個別化””
これからの不妊治療専門施設が進むべき道だと考えています。