子宮内膜着床能検査とは、子宮内膜の受容能検査で、子宮内膜組織を採取し、RNAの構成から、子宮内膜における受精卵が着床できる時期を調べる検査です。
10年程前にスペインのIVIグループのトップが、ASRM(アメリカ生殖医学会)でこの検査について発表し、Awardを受賞しましたので、私も、この検査にはずっと注目していました。
しかし、しばらくするとこの検査が有効ではない、という論文が発表されましたので、当院では積極的にこの検査をすすめてはいませんでした。
昔は、子宮内膜黄体期の黄体ホルモンの作用は、子宮内膜日付診(排卵後5-6日目で子宮内膜を一部採取し、排卵後の日数を推定する検査)で、病理検査を行っていた時代もありました。
また、内膜スクラッチ(着床の前にわざと子宮内膜に小さな傷をつける方法)を行えば着床能が向上するのではないかと言われていた時代もありましたが、「あまり意味がない」と、20年程前に、その論争は終了しています。
ですから、子宮内膜の方が着床の準備ができている、できていないという話については最初から微妙な話だ、と思っていました。
血液中の黄体ホルモンを測定しても、黄体ホルモンは半減期が非常に短いので黄体機能は判定できないとされてきました。
坐薬等、外部から投与する場合は、黄体ホルモンの濃度は、大きく乱高下するので血中の黄体ホルモンを測定しても意味が無い、と言われていましたし、胎盤の機能として黄体ホルモンの測定をしても意味がない、ということは昔からいつくもの論文で発表されています。
しかし、不妊治療ではこれらの、あまり意味がない、と言われている検査が未だに、黄体機能検査として行われています。
子宮内膜着床能検査については、当初、高額な割には有効性を感じられないため、当院では検査を行っていませんでした。
しかし、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の会員は通常の価格より安く検査を行うことができ、また日本では検査会社の宣伝効果が高く、患者さんから「子宮内膜着床能検査はできないのか?」と問い合わせがありましたので、当院でも希望があれば、検査を行うことにしました。
しかし、この検査の検査結果と当院のプロトコールを比較検証したところ、当院のホルモン補充方法は、長時間作用のルトラールという黄体ホルモンを使用していたため、移植前のホルモン状態が非常に安定しており、当院のプロトコールは、大きく移植の時期がずれることは無かった、という結果でしたので、当院では子宮内膜着床能検査を行う必要はないと考えていました。
案の定、その後もこの検査については、あまり有効な検査データはでていません。
海外の論文では、同じ人で2~3回の検査を行うと、結果がいつも違っているという論文も多々あります。
昨年の夏には、信頼できる無作為化比較試験で検査を行い「むしろ、悪い結果がでた」という衝撃的な論文が発表されました。
この論文に対して、検査の特許権を取得した医師が「患者さまにとって、ためになると思い開発した検査が、むしろ成績が悪かった、ということは患者さまに不利益を与えた。これを我々はもっと反省すべきだ」と反省の弁のコメントを掲載しています。
我々医者にとってヒポクラテスの誓いの時から、患者さんのためにならないことは行ってはいけない、と育ってきたつもりですが「治療の結果がでない」「新しい検査がしたい」「患者さんも何か理由がほしい」ということで、医師も患者さんもお互いがwin-winなので、有効ではない検査を行ってしまうことがあります。
しかし、本当に有効な検査でなければ、安易に行ってはならず、医師側も成績が悪いならばしっかり反省しなければならない、ということを感じました。
一番言いたいことは、子宮内膜が妊娠する卵を選んでいる、という昔ながらの発想は意味がない、ということです。
受精卵自体に育つ能力があるので、子宮内膜がない卵管や卵巣、腹腔内等で受精卵が育ち、子宮外妊娠(異所性妊娠)が起ったり、卵子提供による他人の子宮でも体外受精が成立したりします。
妊娠の成立だけで言えば、子宮内膜は必須ではありません。
子宮内膜着床能検査等は、妊娠という結果がでない時の説明としてはエビデンスが低く、むしろ検査をすることで結果が悪くなることが明確になりました。
私が常々言ってきたように子宮が卵を選んでいるわけではないということが示されました。
世の中には、いまだに必要が無いと思われる検査が数多くあるので患者さんも「卵が主役である」ということを再認識して、治療に臨んでほしいと思います。
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