今回は癒着胎盤についてお話をしたいと思います。
体外受精で癒着胎盤または陥入胎盤になるのか?と時々質問を受けます。
また、患者さんからの出産報告をいただくときに、出血が多かったので、担当医師より「体外受精だからそうなった」と言われ、体外受精に不信感を抱いた、という方もいます。
私が強く言いたいのは「体外受精だから」「顕微授精だから」という理由付けが間違っているということです。


世界で最初の体外受精は1978年、日本での最初の体外受精は1983年です。
それまで、体外受精で生まれた赤ちゃんはいませんでした。
しかし、体外受精が始まる前から、癒着胎盤や陥入胎盤はありました。
それらの原因が本当に体外受精であれば、体外受精開始後は、その件数に併せて
癒着胎盤や陥入胎盤の人も増加していくはずですが、そうではありません。
日本で体外受精が始まった頃は、体外受精で生まれる赤ちゃんは何百人かに1人でしたが現在では、12~3人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれています。


ただ、調査をすると体外受精、顕微授精で妊娠した人は、自然妊娠の人と比べて、
出産時の出血がやや多い、という調査結果が無いわけではありません。
しかし、体外受精を行った全員の出血量が多いわけではなく、出血量の多い人の数が
自然妊娠の人に比べてわずかに多いため平均値を上げている、ということが分かっています。


理由付けの間違いについては、子宮頸がんワクチン接種もそうだと思います。
日本では、ワクチン接種後の副反応だと言われていた症状が、ワクチン接種との因果関係が証明されていないにも関わらず、10年程、予防接種対象者への積極的な勧奨が控えられてた、という苦い経験が世界で唯一あります。
そのため、子宮頸がんワクチン接種については、日本は世界から大幅に遅れてしまいました。


もともと、胎盤は魚類、両生類、爬虫類とつながる進化の過程で、我々の先祖はほ乳類となり、子宮ができ、胎盤ができました。
同じ胎盤といっても、例えば牛や馬、豚などの家畜の胎盤は、ヒトの胎盤と比べ形や作りが違います。
家畜の胎盤は、子宮内膜の上にのっているだけなので、癒着胎盤や陥入胎盤はなく、
通常は安産です。
ヒトの場合は、左右に2つあった子宮がひとつになり、1人の赤ちゃんを産むことに特化して進化した特徴があります。


生物学的にいうと、ヒトの赤ちゃんは他のほ乳類と比べ、生まれてすぐに立つことも、走ることもできませし、一度に何人も産むことが難しいです。また、頭が大きいので、早産でお産をしていると言われています。
ヒトの胎盤は家畜の胎盤とは違い、胎盤の絨毛が根のように子宮内膜から筋層に向かい発育しある程度子宮に侵入して、胎盤が形成されてるという特徴があります。そのためより強固に胎盤が子宮に張り付いて栄養をしっかり吸収している状況で赤ちゃんが育ちます。
理論進化学の先生の話では、胎盤の絨毛が子宮に深く入り込めば植物が根を張ったような状態になるので、より多くの栄養がとれ、赤ちゃんがよく育つためどんどん子宮に侵入しようとするのに対し、子宮側はある程度のところでストップしてほしいため、卵の側と子宮側との遺伝子のせめぎあいがあり、胎盤の深さが決まると説明されていました。


体外受精が始まる前から、人工妊娠中絶や流産手術、子宮腺筋症や子宮筋腫の手術等
を行った人には、陥入胎盤が多く、高齢になると陥入胎盤が多い、というデータもあります。
胎盤の絨毛が侵入する深さは、子宮側の「ここまでにして」という条件がうまく働いていないので深く入り込みすぎてしまう、というのが、ヒトの胎盤の深さの真相になります。


SNS等では、ホルモン補充で移植をすると癒着胎盤が増えるという情報があるということも聞きましたが、それもそんなに単純なことではありません。
ホルモン補充といっても、使用する黄体ホルモンにより、状況は変わります。


私は2007年まで黄体ホルモン(プロゲステロン)の膣座薬を自分で作り、使用していましたがプロゲステロンは非常に早く分解されてしまうので、数百ミリという大量の膣座薬を2~3回/日、使用していました。
そのようなプロゲステロンの膣座薬では、血液中のプロゲステロン値がジェットイコースターのように、乱高下し、胎盤形成にも影響があり、絨毛膜下血腫等の異常が生じやすいと考えています。


2007年から、当院では経口の黄体ホルモンであるルトラールを使用してきました。
ルトラールは長時間作用の黄体ホルモンで非常に安定しており、たった2㎎の経口剤を
1日3錠の使用で妊娠の維持が可能です。
今回の保険適用では、ルトラールの適応は限定されており、保険治療の方は膣座薬を
使用せざるを得ない状況で、非常に残念ですが、やがて使用できるようになることを望んでいます。

上手くいかなかった時、説明しがたい時などに、「体外受精だから」という理由付けをされることは医学的・科学的観点からやめてほしいと思いますし、様々な条件のある、不妊患者さんをひとくくりにして説明をすることはやめてほしいと、ずっと思ってきました。
体外受精が保険適用になったことにより、一般的な治療として受け止められるようになり「体外受精だから」という説明が減ってほしいと願っています。
 

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