保険適用が始まってから約1年経ちました。そのような中で危惧していることがあります。

今回の保険適用では、麻酔の点数が従来のままのため、通常通り麻酔をかけると大赤字になるという状況になりました。そのため麻酔をかけずに採卵する施設が増えていると聞いています。非常に残念なことです。
麻酔をかけなければ当然痛いので、ちゃんと調節卵巣刺激をしなくなって、採卵あたりの妊娠率がどんどん低くなることが懸念されます。

体外受精の採卵あたりの妊娠率は、採卵数に比例して妊娠率が上がります。採卵数はAMHと年齢による卵巣予備能に見合った調節卵巣刺激によって、ほとんど決まります。AMHと年齢による卵巣予備能で刺激方法を考えるというのが最もよいやり方と考えます。
卵巣刺激について、低刺激がよいとか高刺激がよいとかいう議論は、卵子の本質を理解していない考え方で、妊娠率にこだわるなら、卵巣刺激は卵巣予備能に見合った適切な調節卵巣刺激しかないと考えています。

麻酔がかけられないから治療成績が悪くなる、ということはあってはならないと思いますし、麻酔をかけないことは、ある意味拷問や虐待のようなものだと私は考えています。

当院では保険の点数にかかわらず、麻酔をかけるという方針を少しも変えていません。人員をかけ、静脈麻酔を点滴して、パルスオキシメーター等のモニターも使いながら、呼吸が弱くなれば人工呼吸器も使用できるよう準備しています。麻酔から覚めた後もベッドで休めるよう、リカバリールーム・リカバリーベッドも十分用意しています。

このように麻酔を大切にするのは、私自身が数々の手術を受ける経験をしているからです。

医学部の学生のときには、足の指の内軟骨腫のため、骨盤から骨を削って移植したことがあります。手術をした日の夜中に術者である整形外科の助教授が私のところへ来て「お前は痛がりすぎだ。」と怒られました。本当に痛かったのです。
早期の腎臓がんで、腎臓の部分切除をしたこともあります。左の脇腹に17cmほど手術の傷痕があります。そのときは硬膜外麻酔がかかっていたので、ほとんど痛みを感じず、麻酔の力はとてもすごいなと思いました。
前立腺がんの手術を内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」で受けたこともあり、お腹に6ヶ所の傷痕があります。腹腔鏡検査は硬膜外麻酔なしで行われ、術後は非常に痛い思いをしました。術後の麻酔もかけるべきだと私は感じました。
無麻酔で4時間かけ心室性期外収縮(不整脈)のためのアブレーション手術も受けました。ずっと耳が聞こえる状態で大変でした。私は何をしているかが大体想像できるので、怖さはそれほどありませんでしたが、一般の人だったら何をされているかわからず、怖くてたまらないのではないかと思います。このようなときも麻酔をかけてほしいのですが、麻酔をかけると不整脈が消えてしまうということを心配して麻酔をかけないということでした。そのとき私は25%以上心室性期外収縮が出ている状態でしたので、麻酔をかけても変わらないのではないかと思っていました。

痛い経験をすると、身体の方が覚えていてこわばってしまいます。1度でも無麻酔で採卵したことがある患者さんは、採卵と聞いただけで身体がこわばって不妊治療をしたくないという思いが、無意識のうちにいろいろなところに湧き上がってくると思います。それが適切な不妊治療を受けられない原因の一つにならないかと思っています。

何よりもきちんと麻酔をかけ、痛みを取るというのが医療の一番の本分、大事なことと私は考えています。

 

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2023年4月1日より品川クリニックの診療時間が拡大します

月・火・木・金 11:30~20:00

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