先日不妊治療クリニックを変わりたいという相談がありました。
紹介者が電話をかけたところ電話口から、「高刺激の浅田さんですか」という声が聞こえてきました。
実は、高刺激というのは私にとっては受け入れがたい言葉です。なぜなら常々、調節卵巣刺激は卵巣予備能(当院ではAMHで主に評価)に合わせた適切な卵巣刺激しかない、と説明しているからです。
世間では低刺激、高刺激という間違った用語が使われていることに、心を痛めてきました。
10年以上前のアメリカの論文ですが、日本で自然周期というのが流行りだしたときに、「低刺激の反対は高刺激ではなく、適切な卵巣刺激だ」というような内容でした。英語ではappropriateな卵巣刺激、という言葉が使われていました。
調節卵巣刺激は、妊娠率を高めるために行います。1回の採卵で採れた卵の数に比例して妊娠率は高くなります。
それを無視して、よい卵が自然に選ばれて育つような誤解を患者さんに与えて低刺激をし、何度も採卵を繰り返している施設が日本では多く、長く続けられてきたので、世界で最も採卵あたりの妊娠率が悪い、卵巣刺激がまともにできない国という状況に陥ってしまいました。
世界的なエビデンスとして認められている、イギリス国立医療技術評価機構であるNICEのガイドライン、またヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の体外受精の卵巣刺激についてのガイドラインでは、自然周期で採卵すべきでない、患者さんにとってメリットがないということが明記されています。
当院では、卵巣予備能に合わせた適切な卵巣刺激を行い、卵巣予備能が十分なら1回の採卵で二人目、三人目の妊娠も可能にする “One and Done” を提唱してきました。
最近は高齢で卵巣予備能が低い患者さんもたくさんいらっしゃいます。そのような方に注射で多くのホルモン補充をしても採れる卵の数は限られていますので、飲み薬を使った簡易の体外受精を行うことも当然行っています。
「患者さんそれぞれの状態に応じた適切な調節卵巣刺激」、不妊治療においてはこれしかないと考えるような世の中になってほしいと思います。