今年の4月から不妊治療が保険適用になりました。
その中で最初はあまり話題にならず、不妊治療の項目としては資料に載っていませんでしたが、実は問題になっているのが麻酔です。
麻酔の点数が保険ではかなり低いことが判明したため、大きな病院や我々のようなクリニックにとっても、困る状況になりました。
保険点数が極端に低いため、麻酔をやめる施設が出てきたことを耳にしました。無麻酔、あるいは鎮痛剤だけで採卵するそうです。
私はずっと以前から、不妊治療だけでなく、医療は痛みを取ることが一番大事なことだと思っていますので、これからも、採算より患者さんが痛みなく治療を受けられる、ということを優先します。
腎臓がんや前立腺がん、心臓のアブレーションなど、患者として、いろいろな経験をしてきたことを通して、痛みが一番ダメージがあり、痛みによって心にもダメージを残すと実感しています。
無麻酔で採卵すれば、患者さんも医師も、痛みのため早く採卵を切り上げたくなり、一方で採卵後の麻酔の管理もしなくてよくなるため、経営上は効率がよくなります。
卵巣刺激をきちんと行わず、麻酔をかけず、採卵ばかり繰り返せば、なかなか妊娠しないので患者さんは減らず、採卵の回数が増えていくため、経営としてはありがたい、ということなのでしょうか。
ただ、1回の採卵で採れた卵の数で妊娠率が決まる、というのが、世界的に認められているエビデンスです。少ない数の採卵を続けていく、というのは効率が悪く、妊娠率も上がりません。
長年にわたって日本では採卵あたりの妊娠率・出産率が世界最低となってしまっていることを、データを用いて訴えてきました。麻酔をかけて採卵をしないことも大きな原因と考えていますが、それが今回の保険適用でさらに助長されてひどい状況にならないか危惧しています。
麻酔を適正にできる医師、麻酔後も適正に管理できるよう回復室を設けた施設、麻酔を適正に管理できるようしっかりとした教育を受けた看護師、スタッフがいるところで、不妊治療が広がっていってほしいと願います。それが当然、ということになるのを期待します。
当院では、これからも痛みのない不妊治療を目指していきます。