研究紹介の第2弾のテーマは「卵子の成熟判断が難しい卵子」です。受精卵を得るためには1つでも多くの成熟した卵子を獲得し、受精させることが重要です。今回は卵子の成熟判定が難しい症例と妊娠例についての研究成果をご紹介します。

前回の研究紹介でも説明しました通り、体外受精のために採卵された卵子の多くはM II期と呼ばれる状態で、特徴として極体があることや紡錘体があることなどがあげられます(図1)。



卵子の成熟は極体と呼ばれる卵子から放出された染色体と細胞質の塊の有無によって判断されます。極体があればM II期と判断し、それらの卵子は体外受精や顕微授精の対象となります。一方、極体が確認できなかった卵子は未成熟として体外受精や顕微授精に進むことができません

患者様の中には、採卵された卵子の多くが成熟判定の難しい卵子である方がいらっしゃいます。その患者様の卵子の特徴として、主に下の2点があげられます(図2)。

・透明帯の形態が通常とは異なる(透明帯の外側が突起状になっている、またはいくつかの層になっている)
・卵子の細胞質と透明帯の間にすき間(囲卵腔)がない

それらの卵子はその形態から、極体の確認がしづらく、これまでは多くの卵子が未成熟卵子として判断されていました。



当院ではこれまでにこれらの卵子を蛍光免疫染色という方法で卵子の紡錘体および染色体を可視化することで、卵子の成熟を判定するという研究発表をしています。

この研究では、まず上の2つの特徴がみられ、未成熟と判断され体外受精や顕微授精の対象にならなかった卵子の紡錘体と染色体を蛍光免疫染色によって可視化します。染色後に紡錘体と極体の有無を観察することで卵子の成熟を判定し、それらの卵子にどのくらいの割合で成熟卵子が存在するのかを明らかにしました。

その結果、これまで未成熟と判断されていた卵子の中には成熟卵子が含まれていることを明らかにしました。これらの卵子を持つ患者様のなかには、未成熟と判断された卵子のうち、44.4%(18個中8個)が成熟卵子という方もいらっしゃいました。




このデータをもとに、採卵後の卵子観察基準を変更し、上の特徴がみられる卵子では通常の卵子よりも極体確認を念入りに行い、さらに特殊な顕微鏡を使って紡錘体の観察を行うことで、より厳しく成熟判定を行うことにしました。

それにより、これまで未成熟と判断され、体外受精や顕微授精を行うことすらできなかった卵子から正常受精卵子を得ることに成功しました。それだけでなく、それらの受精卵を胚移植することによって2名の患者様では妊娠・出産に至っています。

【 形態異常卵子の前核形成動画 】
 


このように様々な方法や科学的根拠に基づいて卵子の特徴を把握し、その卵子に適した方法で成熟を判断することで、一人でも多くの患者様の出産に貢献したいと考えています。