急に降り出した雨。
傘を持たずに出掛けてきてしまった僕は慌てて
雨宿りできる場所まで走った。
肩に付いた水滴を払いながら横を向くと
ひとりの女性が僕と同じように雨宿りしている様子だった。
その女性が何気にこちらを向いた瞬間、僕は心臓が
止まりそうなくらい驚いた。
そこに恵がいたから。
その場を取りつくろうように僕は声を掛けた。
「やっやあ。元気?」
「うん!そっちは?」
「ごらんの通り、元気だよ」
「そう。良かった」
そう言って微笑んだ恵は昔より綺麗に見えた。
それに比べて今の僕は相変わらずさえない格好のままで、
なんだか情けない。
一生懸命に会話をしようとするが続かない。
うまく顔を合わすことさえできない。聞きたいことは
山ほどある。
だけど、たぶん何も聞かないほうがいい。
このまま、やり過ごしたほうが……。
やがて雨は止み、恵が軽く手を振ってこの場を立ち去る。
胸が苦しくなる。
どれほど僕は幸せだったかいうことをあらためて
噛みしめる。
いつも、ふたりだったあの頃を。
ー以上、短編小説「雨宿り」でした。ご意見、感想等コメントお願いいたしますー
一斗
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