ステレオアンプを彷彿とさせる、ESグレードとして最後まで残ったAVアンプ栄光の「555最終型」

 

ソニーのオーディオ製品、特にESグレードとして象徴的なのは「777」「555」「333」「222」といった3桁ぞろ目ナンバーを付けたものでしょう。

始まりはTA-V777ES(純粋なAVアンプとして最初で最後、777も1代のみ)、STR-V555ES(FM/AMチューナー内蔵なので、正確に呼称するならAVサラウンドレシーバーですが、便宜的にAVアンプと記載します)の2モデルでした。

そこからSTR-VA555ESが発売され、シンプルながら斬新なフロントフェイスとESシリーズの名に恥じないベーシックな性能、音質に注力したソニーの立役者(主にマニア層への)でした。

実は1つ下のグレードもESの名はついていませんが、実に素晴らしいものだそうです。

 

こうして2003年、のちにTA-D9000ESの発売によってデジタルアンプを前面に出していくソニーとしては、最後となるアナログアンプを搭載した「555ES」の名を司る、最後の製品が登場しました。

 

それがSTR-VZ555ESです。

 

継続は力なり、を体現する製品のブラッシュアップと、集大成を意味する型式が伝えるもの

 

見た目は正直、これまでのSTR-V555ESやSTR-VA555ESと比べて、大きく違いを感じさせません。

しかし、サラウンド環境の改善(質の向上)と、ステレオアンプとしての高音質の両立という、相反するように見える課題に対して

継続的に取り組み、製品をブラッシュアップさせた部分を大きく感じさせるものがあります。

それは「筐体サイズ」です。

AVアンプは様々な回路が同居するため信号経路が長くなりますが、筐体サイズをどこまでも大きくするわけにはいきません。

これまでよりも大きくしたことには、信号経路を短くするための回路基板の配置をするための配慮が行き届いているようです。

また、デジタルボリュームを採用することによってアナログ信号とデジタル信号の変換、処理について整理して音質劣化を防ごうという狙いが見て取れます。

そしてこれまで手を加えられてこなかった、電源回路にメスを入れることによって(CleanSTD電源を搭載)飛躍的な音質向上を図っています。

他にも数えきれないほどの、様々な改良が施されることによってV、VAと続いた型式は、いきなりVZへとジャンプすることになり並々ならぬ努力によって得られた集大成をユーザーに届けよう、いう確固たる開発者の決意を感じさせてくれます。

 

ヤマハが「受け」ならば、ソニーは「攻め」 ステレオ再生のクオリティは非常に高い

 

特に電源ケーブルを高級品(今回はゾノトーン製を使用)に交換した際の変化量は大きい。

光デジタル入力で、24ビット96kHzというハイレゾ音源を使用し試聴してみたが見通しが良く、適度に厚みを持たせたはつらつとしたサウンドでした。同じ条件だとヤマハは受け身を感じさせるが、ソニーは攻めを感じさせてくれる。映像機器に対して負けないように際立たせるものを持たせているように感じた。

ハイレゾ音源対応D/Aコンバータを搭載した、FM/AMレシーバー(チューナーアンプ)として大いに役に立つことだろう。

まだ音質をチェックできていないが、フォノイコライザー(MM型のみ対応)も搭載しているのでアナログレコード再生もここからスタートできる。

 

音質が良いAVアンプは、確かに存在するが実はコスパは悪い

 

これは製品が現役で売られていた時代の、販売店のスタッフの個人的なコメントだが

「AVアンプで10万円以上出すことで、ステレオアンプとしては3-4万円のエントリークラスの音質がようやく得られる」

実はこれに尽きると思うのだ、コスト配分を音声回路2個分(プリアンプ、パワーアンプ、電源部など)だけ考えればいいのと、5から7チャンネル分(現在はさらに複数のチャンネルを搭載している)の音声回路、さらに映像回路、最も費用が発生するだろうDSP回路など、実に様々な回路にコストを割り当てなければならず、また場所の制約があることから贅沢な部品や回路を組む余裕が無いことになる。

つまるところ、音質が良いAVアンプは存在するが同じ価格のステレオアンプと比較にならず、その理由は様々な回路へ費用と場所を割り当てることによって、余裕のなさが出てくるからだと思う。

さらに言ってしまえば、サブウーファー付を前提で構築するサラウンド環境において、わざわざAVアンプに強力なアンプ回路や電源回路を用意する必要が無い、言ってしまえばそれまでなのだがハイレゾ音源のマルチチャンネル再生、という幻に終わった音の世界を実現しようと躍起になっていたころの副産物と言えなくもない。

 

映像規格やサラウンド規格の変化の陰で、常に犠牲となってきたAVアンプたちにとって新たな活路を見出すべき時だろう。

割り切ったうえで楽しんでいきたいが、ステレオ再生を目指す者としては通過点に過ぎないのである。