ソニーは一時期、静電型を猛烈にプッシュしていた

 

今では見る影もなく衰えたソニーのオーディオ部門。

ホームオーディオにもはや返り咲くこともなく、このまま静かに幕を下ろすことだろう。

そもそも耳の悪い技術者集団なので、音は良くても心に響く音楽までは理解できなかったようだ。

SS-G7でピアニストが使っていたグランドピアノをその場で弾かせて、音を聴き比べたり

APMスピーカーで平面振動版の欠点を除去しようと躍起になっている頃にはブームが去っていたり

どこか情熱を注ぐ部分が的外れなこともするメーカーであった。

 

システムコンポの最上位機種は、積極的に静電型ツイーターを採用していた

 

COMPO Sというシステムコンポには2ラインナップあった。

S1シリーズとS2シリーズである。

このうち最上位機種であるS1シリーズは、静電型ツィーター搭載アクティブスピーカーとステレオプリアンプを

組み合わせて売っていた。

ほかにPixyというシステムコンポ(さらに一般向け)の最上位機種も同様で、数機種同様の手法を採用して

音質の良さをPRしていたようだ。

 

MDコンポ初期ラインナップの最上位機種用の、スピーカーシステムが今回手に入れたSS-MD9

 

最も評価が低く、冷遇されているのは今回手に入れたスピーカーシステムである。

MDコンポが豪華絢爛であった時代の幕開けに、ソニーは静電型ツィーターを載せて最後の賭けに出たのだろう。

 

ウーハーユニットにアンプを内蔵していない、ソニー唯一の静電型とダイナミック型ハイブリッドスピーカーシステム

 

低域はダイナミック型であるが、パワーアンプを内蔵していない。

コストダウンのために割り切ったと思われるが、これがメリットでもある。

パワーアンプ内蔵型では、搭載されているサンヨーのパワーパックICは音が悪く、低域が過剰な演出がされているからである。

せっかくの静電型ツィーターの良さを自ら足を引っ張る設計にしてしまうのがソニーらしい。

 

経年劣化で動作不良を起こすものが多いが、奇跡的に状態は良好

 

スタックス同様、振動膜のコーティング劣化で定期的なメンテナンスが必要であるが、運よく動作に問題なさそうな1台を手に入れることができた。

ほとんどが振動膜の固着など故障を起こし、高音のみ作動しなくなっていることが多い。

 

高域の表現力はまさに静電型、素晴らしい

 

ダイナミック型では雑になり歪みっぽさを感じさせる高域にかけての耳障りな部分は無い。

スタックスに通じる音色と解像度を両立させた次元の高い表現力である。

 

対する低域から中高域の表現力は、ミニコンポらしい安っぽさを感じてなんだかぼんやりする

 

ウーハーユニットが難物、曲者である。最初はただのゴミかと思ったが思ったよりもまともなサウンドのように聞こえる。

しかし静電型ツィーターの足は引っ張っており、これはバランス良く鳴らすのが難しいと強く感じる。

 

アンプの駆動力に影響を受けるようで、組合せを変更するとうまくバランスが取れる

 

可能な限りハイグレードなアンプを要求する、非力なアンプでは話にならない。

また音色が良すぎてもウーハーユニットのダメっぷりがひどく露呈するため、ごく一般的なメーカーや機種でいいだろう。

うまく組み合わせできれば、マスキングされた中高域やだらしない低域をごまかすことができる。

 

静電型ツイーターの状態さえよければ、下手なローコストスピーカーシステム以上の表現力を持つ

 

システムコンポ用に付属してくるスピーカーシステム、クオリティーはそもそもゴミである。

単体製品として使うことはもちろん想定されていないし、コストダウンの影響で割り切りが最もひどい部分でもある。

ひどくバランスがくるっており、音色も悪く解像度も低く音楽ではなく騒音を放つひどく不愉快な道具だ。

アンプやデッキにお金をかけていても、スピーカーシステムがこういった酷いものを使っているとすべて台無しである。

空気振動に変換する部分は何よりも大事なのだが、理解力の低いユーザーが増えたものだと思う。

 

そんな中、このSS-MD9は比較的まともである。

これはすべて静電型ツィーターのおかげである、その証拠に1ランク下のSS-MD7というスピーカーシステムはそれはもう筆舌しがたいほどの酷い音質であった。組合せによって補われている部分が無くなるということはそういうことだ。

 

しかし割り切りが必要で、メインスピーカーにするには能力不足だ

 

果たしていくらぐらいの製品として扱うべきか、だが良くてもペア10万円程度だろう。

改造するというのなら、ウーハーユニットからクロスオーバーネットワークから、静電型ツィーター部分以外をすべて弄る羽目になり本末転倒である。

クオリティーを突き詰めていくユーザーは早々に飽きるだろうが、そこまで音質にこだわらないと最初から割り切るならばかなり穴場の機種であることを最後に記しておく。