横須賀の三笠桟橋から、船でわずか10分。
穏やかな東京湾の上を進む小さな船が、次第に緑濃い島影へと近づいていきます。
陸から遠くないのに、どこか“別の世界”に招かれているような錯覚を覚える――それが、猿島でした。

 

到着すると、潮の香りとともに湿った森の空気が迎えてくれます。
東京湾に浮かぶ唯一の自然島。かつては砲台と弾薬庫を備えた要塞の島。
文明の波に取り残されたように、島全体が静かに時を刻んでいました。

波の音と風の音が交じり合うなか、目の前に広がる海は、光の加減で刻々と色を変えます。
青、群青、そして夕暮れにかけての金色。
そのどれもが、まるで島が生きているかのように豊かな表情を見せてくれました。

 

 


 

 

島を歩くと、道の両側を覆うタブの木が陽をさえぎり、葉擦れの音だけが耳に残ります。
足もとには石畳、頭上には木漏れ日の空。
都会の喧噪からほんの数キロ離れただけで、これほど時間の流れが変わるものなのかと驚かされます。

 

 

 

島の中心部へ向かうと、ひんやりとした空気が肌を撫でました。
そこには、苔むしたレンガのトンネル――明治時代に築かれた要塞の跡が静かに残っています。

 

レンガの積み方は「フランス積み」だそうです。
日本にわずか4か所しか現存しないという貴重な技法で、
光の差し方によって表面が黄金にも朱にも見える、不思議な深みを帯びています。

 

暗闇の奥へ進むと、足音がレンガの壁に反響して、時折小鳥の声と重なります。
まるで過去の兵士たちの息づかいが、いまもこの空間に溶け残っているようでした。

↓マニュアル撮影

↓オート撮影

 

ここには、砲台や弾薬庫、兵舎の跡が点在しています。
どれも、かつて東京湾を守るために築かれたもの。
しかし皮肉なことに、実戦で使われることは一度もなかったといいます。

使われなかった砲台、眠り続ける弾薬庫。
それらが静かに苔と風に覆われていく姿は、どこか儚く、そして美しい。

島の時間は、まるで人の営みを包み込み、やがて自然へと還していくようでした。


トンネルを抜けて見上げた空の青さに、
「歴史も自然も、どちらもこの島の呼吸なのだ」と、ふ感じました。