2026年3月。
前回お話ししたように、局所治療という選択肢はいったん保留となりました。
しかし、その頃の私は、もう一つの可能性について本格的に調べ始めていました。
それが治験です。
ちょうどその頃、jRCTに公開されたばかりの汎KRAS(pan-KRAS)を標的とした第一相の治験が私の目に留まりました。
妻の遺伝子パネル検査では、KRAS G12Vという変異が見つかっていましたが、この変異に直接適応となる承認薬はありませんでした。
一方で、幅広いKRAS変異を標的とした汎KRAS(pan-KRAS)の治験が少しずつ始まっていることを知りました。
「この治験であれば、妻も参加できるかもしれない。」
久しぶりに、希望という言葉が頭に浮かびました。
もちろん、治験は希望すれば誰でも参加できるものではありません。参加条件があり、厳重な審査および検査があり、入れる枠も少数に限られています。
それでも、挑戦する価値は十分あると思いました。
標準治療には限界があります。当時、残されている標準治療の選択肢は決して多くありませんでした。
少しでも未来へつなぐことができれば、それだけ妻の治療の可能性は広がっていく。私はそう考えていました。
主治医へ相談し、紹介状をお願いしました。
紹介状は快く引き受けていただき、東京の病院へセカンドオピニオンを予約しました。
オニバイド開始後の入院や私たちの日程調整もあり、予約が取れたのは5月末でした。
セカンドオピニオンは、治験を専門に扱う科と、妻の希望で内科もあわせて受診することにしました。
予約の電話の際、事前に、
「気になっている治験はありますか。」
と聞かれたため、私が調べていたpan-KRASの治験について話を聞きたい旨を伝えました。
あわせて、
「その他、妻の遺伝子変異に合う治験があれば教えていただきたいです。」
ともお願いしました。
その頃には、オニバイド治療も始まっていました。
アブゲムの際にCVポートを留置していたこともあり、点滴自体はとてもスムーズでした。
また、この頃からダラクソンラシブという未承認薬の名前を各所で目にするようになりました。
当時(2026年3月頃)の標準治療の抗がん剤と比較して、副作用が少なく、奏効率や病勢コントロール期間が期待できる薬として取り上げられており、KRAS関連の新薬として多くの患者さんやご家族が注目していた時期だったと思います。(それは2026年8月現在も同様ですね。)
また、セカンドオピニオンの準備、オニバイドの治療と並行して、オニバイドでのみ使えるSTNM01という治験についても調べていました。
STNM01は、膵臓の線維化した部分へ直接投与し、線維化を和らげることで抗がん剤が届きやすい環境を作ることを目的とした治験薬です。
オニバイドが効いていれば、この治験も選択肢になるかもしれない。そう考え、実施病院への紹介状や予約だけは先に済ませていました。もし治療が効いたなら、すぐ次の一手を打てるようにしておきたかったからです。
そして迎えたセカンドオピニオン当日。
朝11時頃に病院へ到着し、すべて終わった頃には夕方近くになっていました。
内科では現在の治療方針について確認が行われ、特に目新しい話はありませんでした。
一方、治験専門外来では大きな収穫がありました。
私が希望していた治験が、その病院で実施されていること。
そして、
「枠が空いたらご連絡します。」
と言っていただき、担当医とのつながりを持つことができました。
さらにもう一つ。
CLDN18.2というタンパク質を対象とした治験についても教えていただきました。
膵臓がんでは比較的発現率が高いとされており、もし検査で陽性が確認できれば、新たな選択肢になる可能性があるとのことでした。
そのためだけに生検を行うことはできませんが、今後、生検する機会があれば、その際にあわせて検査しておくと良いという説明を受けました。
病院を出た帰り道。
久しぶりに、まだ希望は残っていると、思えたことを覚えています。
数日後、その病院から一本の電話が入りました。
「治験の枠が開きました。2番目でお待ちいただく形となります。」
その時はまだ、この「2番目」という言葉の重みを、私たちは十分には理解していませんでした。