「南署奉行、砂糖戯けの守若宮丸様、ご出座」
大きな声が白州に響き渡ると、奥の襖が開き、昨日の張りぼての馬に乗っていた戯け面の男が麻裃姿で出てきた。
「お前が新潟のアゴナガハゲだな。手配書に依れば、前科28犯、14回が女児のパンティの窃盗で、14回が無銭飲食、今回の容疑は、便所の汲み取り口から侵入して、99歳の婆さんの腰巻の窃盗、それに相違ないな」
「人違いです」
俺様は慌ててそう言った。俺様を見下ろしていた若宮丸の様子が急変した。
しなを作って、身を捻って、裏声になって、
「無駄な言い訳はよしこさんにしてちょうだいませ。あなたのことは手配書に書いてありますから、市中引き回しの上、斬首、梟首は動きませんわよ、悪人は、このゆずこが月に代わってお仕置きよ」
と言った。
「あいつはバカか」
俺様は思わず呟いた、そのときに若宮丸の眉がぴくりと動いたことにまでは気が付かなかった。
「いつものことだ。興奮して血圧が180を超すとゆずこが出て来る」
神竹が囁いた。
「恐れながらお奉行様にまで申し上げます。この男は最悪の醜男ではございますが、顎は長くなく、辛うじて人類の範疇に入る顔をしております、髪は鬘かも知れないと考え、先ほど現実に引っ張らせましたが自毛でございました」
「それだけでは、別人の証しとはいえぬ」
ゆずこから若宮丸に戻っていた奉行は、人違いでの逮捕を認めようとはしなかった。
「アゴナガハゲは新潟在住ですが、岩手で育っており岩手訛りがあるとのことでございますが、この者は栃木訛りでございます。U字工事のような言葉を使っております」
「U字工事なんて知らん、栃木と言えば東京ぼん太だろう」
「その名は、読者に辛いかと」
「岩手も栃木も同じ東北、言葉は似ておる、別人の証拠にはならん」
若宮丸は強引に言い張って認めようとしない。
「現実、この者のズボンを脱がせよ」
神竹の指示で、見習い与力の現実は力づくで俺様のズボンを引きずり下ろした。ズボンが下ろされ、俺様が穿いていた赤い女性用のビキニのパンティが露わになった。
「新潟のアゴナガハゲならば、サンメリーズの尿洩れパンツを穿いているはず、人違いかと存じますが」
「パンツなどいくらでも穿き替えることができる」
奉行の若宮丸は尚も人違いと認めようとはしなかった。
明日に続きます