私鋳銭 | 夏炉冬扇の長袖者の尉のブログ 

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 伊藤浩士先生の小日本秘史・時々掲載予定 第35回 私鋳銭  

 

 律令国家の貨幣政策は金儲けを企んだもので、銭に含まれている銅の市場価値とはかけ離れた高値の公定価格を決めて発行して、そのために受け取る者が少なく流通しなかったことは昨日書きましたが、当たり前の話ですが、原材料の価値とかけ離れた公定価格を設定すれば偽物が作られます。

 

 本物の和同開珎を持って来て、粘土を押付けて型を取りそこへ銅を流し込めば偽物は容易に出来ます。日本には古墳時代から仿製鏡を作る技術があったので、それで銅貨の複製などは簡単にできるのです。

 

 政府が作った通貨といっても粗雑な作りなので、民間で作られた銭、これを私鋳銭と言いましたが、それとの間には殆ど差がなく、偽物と判定することは難しかったのです。

 

 流通していない貨幣を作ってどのような儲けがあるのかですが、政府は貨幣を流通させるために、大量の貨幣を献納した者に官位を与えるとか、納税を貨幣で行なわせるとかいったことをやっていました。民間では流通しない一方で、通貨は政府がまとめて引き受けてくれる状況があったわけです。

 

 銅を買って私鋳銭を作り、官位を得る為や納税のために銭を集めている人に公定価格よりも遥かに安い価格で売る、それでも公定価格が原価に比して異常に高すぎるので、私鋳銭作りは儲かりました。買官や納税のために、銭を集めている人も、公定価格よりもはるかに安い価格で入手できるので儲かりました。政府は和同開珎1枚が籾6升という公定価格を決めてしまっているので、私鋳銭を混ぜて持って来られても判別が難しく、その価値であるとして納税を認めねばならず、官位も与えなければなりません。

 

 政府は儲けるつもりで銭を発行したのですが、私鋳銭を作る人たちやそれを買い集めて持ち込む人たちに、儲けを横取りされた上に、私鋳銭を抱え込むことになったのです。実際の価値を無視した公定価格など決めずに、貨幣の銅の価値で流通させておけば、私鋳銭を作っても儲からないので作る人はいなくなり、銅の市場価値と同じであれば損はしないからと受け取る人も増えていたはずですが、そうしなかったので、流通はしない、私鋳銭が作られるといった、大失敗に終わってしまいました。

 

 通貨が失敗に終わったので、日本はコメや布が取引に使われる経済になりますが、コメや布は時間が経てば劣化します、水に濡らせば品質が落ちますから蓄財には向きません。その点では劣化もしない、濡れても構わない通貨は便利です。日本の経済が通貨を必要とするほど成熟していなかったともいえますが、上手くやれば蓄財などには利用されていた可能性もあったのに、拙劣な政策のためにその可能性さえ潰してしまったのです。