「さーて、たまには自転車でゴハンでも食べに行こうかな」
と、マンション裏口の駐輪場に行ったら、
「ま、ま、マジかよ！
俺のチャリが無くなってるじゃんかっ
」
まさか、うちのマンションの敷地内で盗まれるなんて、
フザけたヤツもいるもんだ
怒りとともにやってくる、恐怖と不安…。
でも、余裕だぜ、うちのマンションには
いたる所に防犯カメラが付いてるんだ。
すぐ犯人なんてわかるさ
そして、僕の捜査は始まった。
犯人を見つけ出し、炙って呪ってやろうと、
さっそく管理会社に問い合せ、事務所に行った。
事情を説明し、
過去数ヶ月の防犯カメラの映像を、特別に見せて頂いたのだ。
「時間かかりそうですね…」
なんて話しながらも、映像機器の使い方を教えてもらい、
「1時間だけやらせてください
」
と、僕は目を光らせた。
しかしながら、
冬だし、最後にチャリに乗った記憶が全く思い出せないもんだ。
とりあえず、日時を広範囲からどんどん狭めて行く作業をした。
【1/1午後5時】…自転車置き場に僕のチャリが鮮明に映っている。
【3/1午後5時】…おっと、この時点ではチャリが消えているな。
【1/15午後5時】…まだ、あるぞ、よしよし。
【2/15午後5時】…な、無い…
【2/1午後5時】…まだ、僕のチャリはある。
そんな作業をくり返し、どんどん日時が絞られて行く。
「ふふふ、この間のどこかで、盗まれたか。」
そして、更に日時は絞られた。
「ははーん、2/8に無くなったな。
」
今度は、1時間単位で、絞って行く作業をした。
「おっと、19時にはあって、20時には無い…ってことは、
この60分を、見れば、遂に犯人がわかるな、ふふふ」
この時点で、僕はすっかり、刑事になった気分だった。
正直、チャリが消えた事なんて、もうどうでもよくなっていた。
犯人に近づいている快感で、とても気持ちがよかった。
そして、時は来た。
時刻19：46の事だ。
遂に発見したのだ。僕のチャリを盗んでいくヤツが。
伊藤「コ、コ、コイツだぁぁぁ！」
管理会社のおじさん「み、見つかりましたね！！！」
そして画面を拡大する。
「あ、あ、あれ〜？？？こ、こ、これは……」
………僕は言葉を失った。
犯人は、なんと、
なんと、
……僕自身だったのだ。
管理会社のおじさん「コレ、伊藤さん……ですよね？」
二人で目を合わし、沈黙が事務所を包んだ。
僕は、目をこすり、慌てて弁明した。
「い、いや、違う！そ、そうだ！たぶん、この日、薬局行ったんですわ、そうだ。携帯の履歴を見たら、薬局に電話した形跡がある、そうだ、そうそう、10分で僕戻ってきますよ！
だから、犯人は、その後、盗んだんでしょうね！」
と、再度、焦りを隠しながら、捜査を再開した。
防犯カメラは、全部で16台。
10分後に、自転車で戻ってくる自分が必ず映っているはずだ。
そう信じて、時刻を19：55にセットし、再生した。
待つ頃、数十秒……。
「あ、あ、あれ〜
」
宣言通り、
確かに僕は帰宅していた。
エレベーターに乗る姿も映っていた。
がしかし、帰って来た僕の姿は、
なんとしたことか、
正面玄関から、
普通に徒歩で帰って来ているではないか
「な、なんという事だ…」
僕は全身うなだれ、力の入らない右手を頑張って動かし、
犯行現場と予想されたあの自転車置き場へと、
映像を切り替えた。
すると、19：56分、
エレベーターには既に僕が乗っているのにもかかわらず、
自転車置き場には…
僕のチャリは……
無ーーーーい
その瞬間、全ての謎が説けた。
「も、申し訳ありませんでした…、たぶん、薬局までチャリで行って、帰り、隣のコンビニで買い物をして、チャリをすっかり忘れて、歩いて帰って来ちゃった模様です、犯人は、僕でした。」
そして、深々と頭を下げ、管理会社を後にし、
僕は、家の近所を徹底的に捜索した。
がしかし、残念ながら、いまだ見つからず。
コンビニ前で撤去されたと仮定して、
区役所が管理する放置自転車置き場にも行った。
300台くらい保管された自転車を全て見てまわった。
がしかし、どこにも無かった。
そうなると、コンビニ前に放置したまま、
そこで今度は「本当の盗難」にあったのかもしれない。
捜査は続く…。