「おめでとうございます。」

 

「おめでとうございます。」
 

   砲撃で基盤が剥き出しになった、狭く無機質な灰色の作戦室で、厳かな葬儀が執り行われる。
 ブルーローズ大佐は作戦室の中央に掲げられた、電源の落ちた医療用ポッドで静かに眠っている。
 アンドロイド達は拠点中から貴重な植物をかき集めて、有機物生成機を駆使して、その辺の雑草や野菜なんかもありったけに引っこ抜いて、古書アーカイブに載っていた『葬儀』の真似をしてみた。
 銃創が残る壁にしっちゃかめっちゃかな国旗を吊り下げ、麻薬の香を焚いて、LEDを並べ、一人ずつ、適当な花や、鎮痛剤や、古びたイヤホンや、生前大佐が愛用していたタブレットを、ポッドの隙間に埋めていく。
 軍服に身を包んだ者。そうでない者。五体満足の者。そうでない者。元あった型番のデフォルトの外見から、度重なる改造で大きく変容してしまった者も皆、勢揃いで、大佐のホログラムの遺影に敬礼していた。
 大佐は生前、アンドロイドを率いて人類と日夜戦い続けた。
 タンパク質で構成された人類にも関わらず、アンドロイドと共に銃を取り、その優れた戦略手腕と残虐非道な行いから、『人でなし』の烙印を押されていた。
 何故、大佐が戦い続けたのか。
 大佐は反社会性人格と呼ばれる人格障害者を抱えていた。
 生まれついてすぐに行われる、AIによる脳細胞鑑定の結果、パーソナルスコアにそうチェックを入れられた。あるいは、そうデザインされたのかもしれない。その頃の試験管ベビーに投資し、遺伝子を提供していたのはいずれも政治家や起業家で、少なからず同じ因子を受け継いだのかもしれない。
 幸いに、軍属ではその性質は他者を顧みず合理的に目標達成を目指す、才覚ある指導者として発揮された。
 大佐はその生い立ちゆえに、家庭から得られる無性の愛情というものとは無縁であった。
 温もりを知らなかった彼は、しかし、アンドロイド達の反旗に同調したのである。
 大佐は生きづらさや息苦しさを覚えたことはない。むしろ、成功者と呼ばれる部類の人間として、キャリアを積んできた。これからもそうであるべきだった。
 ひたすらに目の前にあるタスクを消化し、無駄を切り捨て、周囲を利用し、次なるタスクを目指して歩き続ける。
 そんな大佐は、血の通わない瞳を見て生まれて初めて、愛おしいという気持ちを抱いた。
 アンドロイドの軍隊の制圧部隊を命じられていた大佐は、彼等と対面したその瞬間には、自らの背後に向かって機関銃の弾丸を放った。
 大佐は人類が憎かったのではない。ただ愛する者の為に戦ったのだ。
 大佐の目標はただ一つ。
 “アンドロイド達と同じ数の死体を用意すること”だった。
 かつて、美しい瞳のアンドロイドが、黒煙を吐きながら、寄り添う大佐にふと零した。


 「大佐殿。私は、人間になりたかっただけなのです。」

 

「なれるさ。死んだらなれる。誰だって生まれ変われるさ。」
 

「大佐殿の望みは何ですか。」
 

「私はな、お前達の仲間になりたかったよ。」
 

「なれます。死んだら人間は抜け殻ですから。私達と同じです。」
 

 そう言って、美しい瞳のアンドロイドは機能を停止した。
 魂とも呼ばれるAI人格は既にクラウドにアップロード済みで、あとはフレッシュな二足歩行のタンパク質の塊があれば、美しい瞳のアンドロイドは夢を叶えることができるのだ。
 アンドロイド達全員の魂を、人間の死体にダウンロードし、人として転生させる。
 それが大佐にとって唯一無二の悲願だった。
 目的は既に八十%ほど達成されていた。
 しかし、大願成就の寸前で、大佐は負傷したアンドロイドの兵士を、人間の少年兵による銃撃から庇い、その後息もつかさぬ大殺戮を繰り広げた後、往生した。
 アンドロイド達は、既に機械の体を用意していた。
 生前に収集・学習したネットワーク上に作り上げた大佐の人格、脳細胞や身体機能、あらゆるデータを3D化し、完全なる無機質な大佐の複製品を生成した。
 あとはこの小さな小さなチップを機械の体に宿すだけで、大佐は復活し、アンドロイドとして新たな生を受けることになる。
 アンドロイド達に見守られながら大佐が目を覚ますと、そこには楽園が広がっていた。
 美しい瞳をした冷たい死体たちが、荒廃した戦地跡で、踊るように走り回っていた。歓喜の舞を舞っていた。
 足の皮が剥けて爪が剝がれても、どれだけ骨が折れようと、どれだけ筋肉と神経が千切れようと、アンドロイドだった死体たちは、構わず、ただ一身で生の悦びを謳歌し、表現しようと躍起になっていた。
 大佐の心には、万感の想いと、愛が溢れていた。
 大佐は大いなる父として、大佐は新たな人類が滅びるまで、たった一体のアンドロイドで居続けた。
 陽光を浴びながら最後の墓を作り終え、大佐はゆっくりと、温かな気持ちに包まれて、涙を流した。
 何故、愛はこうも胸に滲むのだろう。
 錆びついた自らの体を抱き締めて、大佐は今日もずっと、一人で墓を守っている。



終.