僕が4歳のころだと思います。

頭にたくさんの「おでき」ができてしまいました。

すると母は、近所の子供たちを呼んで、

家の裏川にいるヒルを集めさせてきました。

そのヒルを僕の頭の「おでき」に一つ一つ置いて行きました。

するとアラ不思議。

痛くありません。

たくさんのヒルはどんどん膨らみ、

僕のおできはどんどん小さくなって直ぐに治りました。

 

医学的には「おでき」は膿瘍ですね。

「膿瘍」は細菌や血球、血漿と壊死物質などが入り混じって被包化

されたものです。

抗菌剤単独では治療が困難。

膿を取り除く「ドレナージ」が治療の一番の切り札になります。

 

ヒルに噛まれてことがある人はそう多くはないでしょうね。

山とか川に出かけると、居るところにはいるものです。

ヒルはとっても小さな口を皮膚に突っ込んで血を吸います。

血は、たんぱく質、その他、いいろな栄養の宝の液体です。

 

 ヒルはうまく血を吸うために、二つの物質を持っています。

 ひとつはヒルジンで、局所麻酔の作用があります。

痛みがないもので、山歩きで山ヒルに知らぬ間に食いつかれていることは時にあります。個人的には屋久島でたいへんでした。

 もう一つはヒルドイド(ヘパリン類似物質)で、これは名前の通り、抗凝固作用(血液を固まりやすくする)があります。吸った血が固まると大変なことになりますからね。

 

 ヒルのおかげで、僕は頭に何か所もメスを入れられないで済みました。どこで知ったのか、母親がしてくれたことには今も感謝しています。

 ところで、ヒルドイドは、アトピー性皮膚炎とか高齢者に多い皮脂欠乏性皮膚炎に使われます。保水性を高める作用も大きいからです。

実は、僕自身も、冬になると足なんかによく塗ることがあります。

 

 

はなしを変えましょう。

昔、かなり昔、「ゴルゴサーティーン」の漫画を読んでいたら、深い傷を負ったデューク東郷が、ウジ虫を集めて、患部に置いているシーンがありました。壊死部があると、創傷の回復に邪魔になるからです。この「ウジ虫」療法は、昔からアポリジニやミャンマーなどの原住民で用いられているようです。 そして、前世紀末から寝たきりの人などによくできる褥瘡の治療に用いられるようになりました。特にドイツや米国などは「先進国」でマゴット(ウジ虫)療法として実施されています。「後進国」から学んだ療法です。

実は、抗生物質が無い時代、壊死性の皮膚感染症にマゴットが用いられていたようですが、高齢化に伴い褥瘡持ちの患者さんが増えてきて

「復活」したのです。

 

なお、日本ではマゴット療法は保険適応がありません。限られた病院では「自由診療」で行われています。

僕が受け持っている入院患者さんにも、いつも2、3名はマゴット療法をしてみたい患者さんはいます。

しかし、看護師さん達に嫌がられてできません。

「先生! ハエが飛んだらどう始末してくれるんです?」

 

仕方なしに、壊死部を溶かす薬(ブロメラインとか)を使うこともありましたが、正常な皮膚にも障害を生じるので、壊死部が多いときは

膿の臭さを我慢しながら、メスやハサミで切り取っています。

 

 

生物の医学への貢献はとても大きいものです。

ペニシリンをはじめ、多くの細菌などから抗生物質が発見されました。遺伝子工学が発達してくると、大腸菌に遺伝子を組み込んで様々な薬を作るようになりました(血栓症の治療薬TPAが嚆矢)。

 

母の命日が近くなってきたので、思い出して書きました。