無罪主張なのに示談する? | 弁護士伊藤友哉のブログ

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某芸能人の刑事事件で,不起訴・釈放後に弁護人が出したコメントが反響を呼びました。

私がこれまで弁護してきた刑事事件で世間の注目を浴びたものはなく,私は弁護人としてコメントしたことはありません。
方針として,依頼者にも言い分があって法的に成り立つ(又は成り立つ可能性がある)としても,示談した後にそれを公にするのは控えます。
示談成立・不起訴・釈放と依頼者の利益になったわけですから,言い分を腹の中にグッと抑え込みます。
公にした結果,相手方や第三者とトラブルが再燃してしまっては汚点を残します。

弁護人があのような内容のコメントを出したことに驚いていますが,有名人だから敢えて出したという事情があるのかもしれません。(仮に自分が有名人の弁護人の立場だったとしても,影響を考慮してあの内容のコメントは出しません。)


もっとも示談を成立させて不起訴処分(おそらく起訴猶予)に持ち込んだ弁護活動はベストで,さすが有名法律事務所です。

ところで,当該コメント弁護士欄に,有名な代表弁護士の名前が無かったのは何故ですかね。




以下,世間話でこの事件の話題になったことからQ&A

Q1 示談が成立したということは,事件が無かったことになるのか?
A1 示談成立を理由に不起訴処分となっても刑事裁判にかけられないだけで,事件の存在が否定されるわけではない。

Q2 言い分があり仮に裁判になったら無罪主張したといっているのに,示談するのは矛盾しないか?
A2 理屈の上では矛盾するかもしれないし非常に難しい判断であるが,刑事裁判になって有罪判決を受けるリスク,勾留が長引く不利益,仕事や扶養家族のこと等を考慮して,依頼者の利益となるならば否認事件であっても被害者と示談するケースはある。
   
Q3 強姦致傷罪は被害者の告訴はなくても起訴できるのに,なぜ起訴されないのか?
A3 強姦致傷罪は非親告罪だが(起訴に告訴は必須ではない),示談条項の中に「告訴を取り下げる」,「処罰を求めない」,「宥恕する(許す)」といった条項があり,検察官が被害者に確認のうえ被害感情が低下したと判断すれば,非親告罪でも通常は起訴されない。