探偵業は恨みを買うことが多々ある。
昔、深刻なストーカー被害に悩む依頼人からの
ストーカー撃退依頼を遂行した際
加害者から逆恨みされ、危うく命を落としそうにことがあった。
ストーカー行為の詳しい被害内容については
探偵として守秘義務があるので
詳しく書くことはできないが
簡単に書けば
加害者と被害者は社会的に上下関係にある立場であり
そのストーキングの様態は非常に陰湿かつ執拗なもので、
被害者の悩みと精神状態は相当に深刻な状況にまで
追い込まれていた。
依頼を受けてすぐに私は
法的に証拠能力を持つ証拠をある程度集め
探偵と名乗ったうえで加害者に直接対面し
ストーカー行為をやめるよう、やめなければ法的措置も辞さない
と詰め寄り、加害者の辞職及び今後一切近づかないという旨の念書を取った。
それからしばらくして加害者は辞職し、被害者にも一切近づかなくなった。
一か月たち、二か月たち、加害者からの被害者へのアプローチは完全に途絶えたものと思われた。
そして四か月たったある日、事件は起きた。
離婚するのに証拠取りをしてほしいという依頼をメールで受けて
依頼人と会うため、待ち合わせの繁華街の喫茶店へ向かった。
だが、待てども待てども依頼人は現れなかった。
教えてもらった電話番号も繋がらず
1時間ぴったり待った後に僕は喫茶店を出て
その日は夜も近かったためそのまま自宅マンションへ向かった
まさか探偵の自分が尾行されているとは考えもしなかった。
当時オートロックのないマンションに住んでいた私は
一階にある部屋へスタスタとはいって行った。
まったく気付かなかった。
ドアを開けた瞬間、後ろから思いっきり押された。
倒れた瞬間、事態を飲み込み、両手で床を押し上げ
台所にダッシュし、出しっぱなしの包丁をつかんで後ろを振り向いた。
2M先くらいまで追いかけてきていた。
半分あいた玄関から差し込む街頭の光に後ろから照らされ
男のシルエットははっきりと浮かび上がっていた。
手には警棒のようなもの、体格はどうみても男、ニットをかぶっている。
向き合ったのはたぶんほんの2,3秒くらいだったと思うが
男は体の向きをかえ、玄関に向かってダッシュし、半開きのドアを
体当たりで開けてそのまま外の廊下へ飛び出した。
すぐに男を追いかけた。
階段を使って逃げようとした男が、踊り場でコケたところで
男を捕まえた。
あの加害者の男だった。
タイミングよく通りかかったマンションの住民に通報してもらい
男を警察に引き渡した。
取り押さえて警察に引き渡すまで
男は僕から目をそらさず、ずっと
「お前のせいだ、責任とれ、お前のせいだ、お前も破滅しろ」
といっていた・・。
警察に引き渡さる段階になると
男はうなだれておとなしくなった。
四か月前から比べるとずいぶんと痩せて焦燥していた。
ドラマのような体験に
僕自身動揺していたが
なにかとても悪いことをした気分になり
探偵をやめたくなった。
あれから8年
今も元気で探偵をやって
時にはストーカー撃退も引き受けている。
当時の被害者とは、ちょっとした縁で今でもたまに
顔を合わすことがある。
幸せそうに家庭の話を
するところを見ると、あの時やめなくてよかったと思う。