さて、今夜は酔った勢いで、日曜日に起こった事件について書きます。
私の母の里は、みかん農家です。
香川県の、日本一日照時間が長い町で、母のお兄さん夫婦とその息子夫婦がみかんを育てています。
毎年、この時期になると、とっておきの、完熟みかんを届けてくれます。私はもちろん、うちの家族全員が楽しみにしています。
そのみかんが7日の日曜日に届きました。
私は喜びいっぱいで、浮かれながら箱をあけました。
……… するとどうでしょう!
箱の中のみかんは、半分近くが、裂けていたのです。
よく見れば、箱はじっとり濡れていて、潰れたみかんの汁がぽたぽた落ちています。
すぐピンときました。
配達の途中で、誰かが、放り投げて落としたのです。
そうとしか考えられません。
みかんは無残に裂けていました。
無残に裂けていましたが、それでも完熟みかんは、甘くおいしそうな香りを放っていました。
私は、カーーーっとなりました。
毎年楽しみにしている、大事な、大事なみかん。
それを、放り投げて、ぐちゃぐちゃにして届けるなんて
昭和じゃあるまいし、今時、そんな仕事する宅急便なんてありますか?
オヤジと相談しました。
「このみかんは、私のために選んで届けてくれた大事なみかんだから、代えることはできないけれど、 でも、 こんなぐちゃぐちゃにして届けて、いいわけない!
ひとこと言ってやる!」
そして、宅急便の会社に電話しました。
それから、せっかくの、週に一度しかない休日が台無しになってしまいました。
宅急便を届ける途中で、誰かが無造作に放り投げて落としたとしか考えられませんが、
だからと言って、犯人を見つけることは絶対にムリでしょう。
宅急便の会社がそんな犯人探しをするとは絶対思えません。
潰れたみかんは、配送に来た青年に持って帰ってもらい、会社の人に見てもらい、また我が家に帰ってきました。
会社の人は謝ってくれましたが、
潰れたみかんは元にもどりません。
「どうすればいいでしょう?」という宅急便の会社の人の問いに
私も困りました。
みかんは、母の里で、従兄弟が一生懸命に作ってくれた、日本一おいしいみかんです。
他のみかんでは代わりになりません。
だから、代わりはいりません。私はこの潰れたみかんを食べたいのです。
と言いました。
でも、荷物をきちんと届けるのが仕事なのに、荷物をぐちゃぐちゃに潰して届けたのだから、それは仕事をしていないということでしょう?
だから、配送料は返してください、と言いました。
会社の人は快く応じてくれました。
そして、荷物を届けた相手方に、配送料を返す、と言いました。尤もです。
結局、私はみかんを潰されて、心もぺしゃんこに潰されて、いやな日曜日を過ごしたわけですが、その気持ちを償うものは何ももらいませんでした。
ただ、潰れたみかんがそこにありました。
その潰れたみかんを、ひとつずつ、次女がきれいにふいて、その日のうちに食べてしまわないと腐ってしまいそうなものを全部よりわけてくれました。
それを、私とオヤジと次女で、ばくばくと、食べました。
一晩で20個くらいは食べたでしょうか。
潰れたみかんはまだまだありましたが、ふだんクールで、家族のドタバタにつきあわない次女が、自分からすすんで、みかんをひとつずつふいて、「このみかん、ほんとうにおいしいね!」と言ってくれる姿を見て、なんだかとても癒されました。
私の母の里から毎年送られてくるみかん。私の親戚とはあまり交流がない、うちの娘たちにはあまり馴染みがないものと思っていたそのみかんも、思えば、娘たちには生まれたときから毎年届けられる、とても馴染みある存在になっていたのです。
なにより、大切にそのみかんを扱ってくれる次女のやさしさが本当に嬉しくて……。
ああ、この子、ふだんはクールだけれど、こんなに優しい子に育ってくれたんだな……と。
そして、昼間、宅急便の会社とのドタバタのやりとりを横目で見ながら仕事に出かけた長女が夜帰ってきてしみじみ言いました。
「みかんのこと、私もいろいろ考えたよ。
たったひと箱のみかん、宅急便の人にしてみたら、どうでもいいちっぽけな荷物だと思うけれど、私たちにしたら、他のものには代えられない、大事な大事な荷物だったんだよね。
私たちがしている仕事も(長女はカリスマハウスマヌカン)、たとえ小さなアクセサリーでも、お客様にとっては、とても大切な気持ちのこもったものかもしれない。これからは、お客様の気持ちをもっと大切に考えるようにするよ」
ふだんは、オヤジを足蹴にするような娘なんですけれど、こういうことには繊細な反応を示します。
そして私はまた別のことを思いました。
翌日、みかんの里のおばさんの所に宅急便の人が配送料を返しにきたそうですが、それはたったの¥790 だったのだそうです。
本当は、迷惑料というか、みかんの代金くらいはくれるのではないかと、ちょっぴり思っていたのですが、配送料だけを届けにきたそうです。
でも、一生懸命あやまってくれたそうです。
そして、「たった¥790」の仕事だったことにガクゼンとしました。
私たちにとっては、価値のつけようのない、大事な大事なみかんだったのですが、
宅急便の会社にしてみれば、「たった¥790の仕事」だったのです。
¥790 のために、私にさんざん怒られ、半日を潰され、返金の手間までかけたことを思うと、宅急便の会社の人も少し気の毒なような気がしました。
でもやっぱり、荷物をきちんと届けられなかった宅急便の会社が悪いんですよね!
私も次女も長女も仕事をしていて、仕事をしているから、一生懸命やっていても失敗することもあると知っているから、だから、宅急便のことをいつまでも怒るつもりはないし、そして仕事をしているから、仕事をきちんと全うすることの大切さを、心に刻んだ出来事なのでした。
