夜の街は少し湿った風が頬に当たっていた
今日は同期何人かで食事に行って気づけば私もそれなりに飲んでいた
普段はあまり飲まないのに皆が楽しそうだったからつい飲みすぎてしまった



天「夏鈴、大丈夫?歩ける?」



横から天の声
低めで落ち着いた声がやけに耳に残る



夏「大丈夫。…多分」



言ったそばから足がふらっとする
すかさず天の手が私の腕をつかむ。温かい



天「"多分"は信用できないやつだよ」



天は少し笑って私を支えながら歩いてくれた



こういう時なんでこんなに自然に優しいんだろう
私はずっと天の事を"特別"に見てるのに
でも天は気づいてない
私もこの気持ちを本人に伝える予定は一切ない
こうして近くにいれるなら、グループの中で気まづくならないなら伝えない方が楽だと思うから



天「あそこに座ろっか」



近くの公園のベンチを指さす
私は素直に頷き腰を下ろした
天も横に腰を下ろし少しの沈黙が生まれる



ふと横を見ると公園の明るいとは言えない光に照らされた天の横顔があった
遠くを見つめていて、その表情に見惚れてしまう



酔いで頭の中のフィルターが弱くなっていってるのが分かる
言っちゃいけないことを言いたくなる



夏「好き」



口から零れ落ちた瞬間、心臓が跳ねた
空気が止まる
天の手が僅かに動く気配がして視線を逸らせない



天「え?」



さっきよりワントーン高い声
驚きと何かを探るような、そんな声



夏「あ…いや、ちが…いや、違わない」



誤魔化そうとしたけどやめた
今さら嘘ついても意味が無い



天「…本当に?酔ってるからとかじゃなくて?」



天が私の目をじっと見つめる
視線を逸らせなくて、唇を軽く噛む



夏「ほんと。ずっと前から」



声が小さくなる
どんどん酔いが冷めていく
それと同時に怖さが増えていく



天は黙ったまま私を見つめていた
その沈黙がやけに長く感じた



天「夏鈴、」



低く、少し柔らかく名前を呼ばれる



天「…なんで今言ったの?」

夏「酔ってるから。でも、酔ってなくても思ってる事だから」



自分でもびっくりするくらい冷静に答える
というより言葉が勝手に零れてくる。止められない



天はふふっと小さく笑った
その笑顔がいつもより優しい気がした



天「…ずるいよ、それ」

夏「ずるいって…」



私が口を尖らせると天が身を寄せてきた
距離が近い。息が触れそう



天「私も、夏鈴のこと、、」



天はそこまで言って言葉を切った



天「、、酔ってない時に言う」



それだけ言って私の頭をぽんっと撫でる
その手の温かさが酔いよりも強く胸に残った



それから数分後
天「送らなくていいの?」

夏「うん、また何か言いそうで怖いから」

天「なにそれ」



天は軽く笑い手を振って「また明日」と言って背を向けた
その背中は夜の街灯に照らされて少しだけど長く伸びていた



言っちゃった
頭の中で何度もその事実が反響する
"好き"ってあんな簡単に出る言葉じゃなかったはずなのに
でも天の顔を思い出すと後悔よりも、変な高揚感の方が勝っていた



マンションに着く頃には足取りはほぼ普通に戻っていた
酔いはまだ残ってるけど、心の方がザワザワしているせいで眠気は全くない



玄関で靴を脱いでそのままリビングに直行
ソファに倒れ込み天とのやり取りを思い返す



夏「"ずるい"って、なんだろ」



小さく声に出してみる
あれは天も少しは何か思ってるって意味?
いや、深読みのしすぎかもしれない
でもあの時の笑顔……優しかったな



スマホを手に取り天のトーク画面を開く
「無事着いた?」って送ろうとして手が止まる
向こうから来るかもしれない
送らないでおこう



数分後、通知音が鳴った
画面には「ちゃんと帰れた?」の文字
やっぱり、天から



「うん。ありがと」
短く返してスマホを伏せる
でも心臓のドキドキが止まらない



シャワーを浴びても、シャンプーの香りより天の匂いを思い出す
髪を乾かして、ベッドに潜り込んでも、瞼の裏には天の顔



私も夏鈴のこと、、酔ってない時に言う



その言葉を反芻して気づけば笑っていた
「ずるいのは天の方だよ……。」
そう呟いてようやく目を閉じる



深夜2時
胸の高鳴りは収まらないまま静かな夜に沈んでいった




よんでいただいてありがとうございます

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