誰かと別れてくるというとき、こちらは船に乗って去ってゆくのがいい。別れ自体のイメージが無限の広がりを見せてくれるような気がするのだ。

 はじめのうちは、あなたの長い髪の揺らめきが非常にはっきり確認できた。ピンクの縦じまが入ったあなたのロングスカートの揺れも、惨めなばかりに僕の目の中にあった。でも、船が遠ざかってゆくにつれて、あなたの姿は、あなたが立ちすくんでいるそこの景色に完全にまみれてしまうのだ。しかしやがてその景色すらも、黒くて広大な空の重さに押しつぶされて、単に影絵のごとき風情と化してしまう。それでも、岸辺のあなたのほうからは、僕のあたりがまだきっと見えている。

 船で離れてゆく別れ方には、どこかそんな得体の知れない残酷さのようなものが潜んでいるのではないか。さらにそのシーンは、つい先ほどまで手の内にあったものを手放す、棄て去る、更にはひとたび棄てたものは己の責任において棄て続けてゆく、といった恒久的というか、絶望的未来感、を底知れず印象させるものなのではないだろうか。