最も引き込まれた文章と言えば秋山駿の「内部の人間の犯罪」である。全ページ暗記してしまったくらいで、異常なほど繰り返し読んだ。殺人犯の心理を分析したものだったが、その内容にあたかも私自身が秋山駿に完璧に読み切られてしまっている恐怖感を抱いた。これと出会って以降つくづく感じ続けていることがある。今日までわずかでも警察沙汰を起こすことなく生きて来られたのは、単に偶然だったのかも知れないということ。

 

幾度も読んだ本で今回も終に手元に置いておくことにしたのが、アーウィン・ギンズバーグの「謎の創世紀」。これのサブタイトルを目にしただけで、いかにもSF好みの血が波打った。〝エデンの園にいた宇宙人〟

 

おしまいに、結局破棄できなかったと強烈に意識したのがマルト・ロベールが書いた「エディプスからモーゼへ」だ。何ひとつ予備知識のなかった私の目にこのタイトルが飛び込んできた瞬間、これは絶対にオレを虜にする本に違いないと全身が硬直したのを覚えている。何とも意味ありげな、妖しささえ漂うタイトル。あれから一体何十年経ったのだろうか。様々な事柄が私を通り抜けていった。

「エディプスからモーゼへ」。未だに1ページも読んでいないのである。