一方男性歌手では、甲高いジーン・ピットニーやニール・セダカ、それとエア・サプライのリードヴォーカルが繰り出す澄み切った高音に憧れる。またタイガーズの加橋かつみや俳優小林旭の、つまり高い声が飽くまでも好みだが、響き渡るようなエンリコ・マシアスやボビー・ソロの低音も魅力がある。それと薬師丸ひろ子と同様に、感心させてやろうというふうなテクニックを全く見せない高石ともやの歌い方に好感を持っていた。

 甲乙つけがたい往年の歌手、今も昔も歌手自体よりも曲に重きを置くタイプであるため、好みの楽曲を世に出した歌手が、つまり好みという理屈になる。

<裏町のピエロ>(若原一郎)、<赤い夕陽の故郷>(三橋美智也)、<上海帰りのリル>(津村謙)、<ふるさとのはなしをしよう>(北原謙二)、<柿の木坂の家>(青木光一)、<黒い花びら>(水原弘)、<勘太郎月夜唄>(小畑実)、<こいさんのラブコール>(フランク永井)、<かえり船>(田端義夫)、<北海の満月>(井沢八郎)、<踊子>(三浦洸一)…。キリがないほど名調子を次から次へと思い浮かべるのだが、どうしても1曲だけ取り上げろと言われたら、おそらく散々迷った挙句、春日八郎を指名し、<長崎の女>を選ぶだろう。

 因みに現代では演歌歌手としては角川博が好みだ。そして<許して下さい>と<夢もよう>を挙げている。しかしこの2曲はどうやら彼の代表作としては名を連ねていないようで、これには抵抗がある。

 

声優となると俄然低音の男に好みが傾く。特に森山周一郎、納谷悟朗、若山弦蔵の三者は忘れることができない。過の有名な〈アンタッチャブル〉で、ブルース・ゴードンが演じたギャングのフランク・ニティの吹き替えをやったときの若山弦蔵には心底惚れたものである。但し、珠玉の吹き替えを挙げればその〈アンタッチャブル〉で主演のロバート・スタックが演じたエリオット・ネスを担当した時の日下武史が絶妙。よくぞこの声優に白羽の矢を立てたものと感心する。ロバート・スタック本人の実際の声より合っている気さえするのだが、そうした感想をもう一人当てはめたいのが〈逃亡者〉でデビッド・ジャンセンを担当した睦五郎だ。充分強面で悪役が多い役者さんだったと記憶するが、あのドラマでの吹き替えは完璧にハマっていた。代役など全く考えられない。更にもう一人、〈インベーダー〉の主役ロイ・シネスを担当した露口茂も素晴らしかった。