30曲以上挙げたが、ベストテンから漏れることはない曲というのは既に決まっている。要するに〝日本版無類十傑〟である。<さよならの夏>、<花の首飾り>、<愛すべきボクたち>、<アンデスの風になりたい>、<戦場の星>、<海の底でうたう唄>、<踊り子>、<歌姫>の8曲。けれども残る2曲の選考は非常に難しいものがある。<恋人もいないのに>や<傘のテーマ>、<電車の中の娘>などもまことに外しがたいのだ。

 外しがたいと言えば<旅人よ>である。本来であればこれはベストテンから漏れるはずのない好みの曲風だからだ。声質の好みを蒸し返すことになりそうだが、加山雄三は<夜空の星>とか<君といつまでも>を歌う分には良いけれども、<旅人よ>の場合、若者への激励と取れる内容にもかかわらず、メロディーは飽くまでも寂しく、絶望的な何かが立ち塞がっているようにすら思えるため、もっと弱弱しい澄んだ歌声を望みたいのだ。加山雄三の声質はその対岸に置かれるべきものであり、私流に喩えればこの曲に隠れている絶望的未来観を暴力的なまでに遮断してしまうのである。とりわけ♪草は枯れても命果てるまで♪の詩と旋律は、最大級と言ってもよい私好みの部分であり、ここはどうしても若い女性コーラスで聴きたい。

 

珠玉と銘打って真っ先に挙げる<さよならの夏>を歌う森山良子の歌唱力は素晴らしいとは思うけれども、私の本当の好む声質というわけではない。島倉千代子の声のほうがはるかに好きである。が、島倉千代子も実は特に気に入っている声でもないのだ。私が好むのは、歌う声を聴いたことはないけれども女優の釈由美子の声で、芸能人ナンバーワンと評価している。また、小林幸子や天童よしみ、藤圭子、北原ミレイ、倍賞千恵子、由紀さおり、本田路津子、水森かおりも良いのだが、プロの歌手でもなさそうな薬師丸ひろ子の声質のほうに魅力を感じる。感心させてやろうといった歌い方を一切しないところが更に非凡さを際立たせていると思うのだ。

もう一人、数年前に知った高齢のプロ歌手クリスティーナ三田の声質は深い。包み込むような温かみと天性の響きが後々まで耳に残る。ラテン系を得意とするようだが、美空ひばりで大ヒットした<川の流れのように>なども情緒性豊かに歌い上げている。