8月の終わり頃から9月の中旬ごろまでの期間限定で聴いてきたのが、<遙かなるアラモ>である。中学生の時、音楽好きの友人と、名曲なのに何というシンプルさなのだろうと、つくづく感心していたことを思い出す。「あの日の山、あの日の川、アラモの空思い出す…」という日本語の詩があった。特に盛り上がる聴かせどころがあるようにも思えず、ひたすら淡々と抑揚なく歌う中で、底知れず聴き入ってしまう。いつかこんな曲を作れたらいいなぁと、おぼろげに考えていた。<小さな花>と同じく、寒い季節には絶対に聴かない曲である。

 

 真夏の夜の銀座、と名付けるリストに不可欠の<ショーレム>。トラディショナルな曲で、ここでは挨拶言葉を繰り返すだけの、まことに簡単な歌詞が付いており、褐色の歌姫と呼ばれたアーサ・キットが見事に歌い上げていた。エスニックの権化、と私は当初より思っている。

 

 クラリネットの音色に都会的なものを連想する私だが、<恋のブルース>もその関係でまことに好きな楽曲だった。のちにこれがイタリア発の楽曲だと知ってたまげることになる。中学時代の音楽好き仲間からの評価は低かったが、そのことが解せなかった自分を記憶している。それにしても無類とする10曲のうち1959年以前のものを4曲も選んでいるのは、いわばカルチャーショックに似たものに依るのかも知れない。

 

 <月光のノクターン>は今の時代ではおそらく出てこない曲である。曲の半ばに男性コーラスが導入されているのが良かった。月光だから夜であり、静かな女性コーラスを当ててもよさそうだが、むしろ男性の声のほうで侘しさを強調する仕上がりになったのではないかと思う。これも厳しく10月と11月に限定して聴いている楽曲である。

 

 中学時代の3年間で聴いた最高の好みは<霧の中のロンリーシティ>だ。ジョン・レイトンはイギリスのロック歌手である。1962年の終わり頃の楽曲だった。これより半年ほど前に日本で大ヒットしたのが<霧の中のジョニー>。こちらも非常に好きだったが、後発のロンリーシティのほうが私の好みに合っていた。各ラジオ番組のヒットチャートを<太陽はひとりぼっち>(映画音楽、コレット・テンピア楽団)とトップ争いしたことは思い出深い。学業などそっちのけで洋楽に傾倒していた。ロンリーシティは私の中では遙かに霞み見える海の彼方にあって、そこは疑いもなく恋の墓場である。この曲を山の峰々を眺めながら聴き入ることはない。ヒットしていた実際の季節の影響も大きく、12月の後半から1月中旬ごろに限定して聴いている曲である。