南辺は、具体的な行動計画を立て始めた。まず、少額を複数回に分けて引き出し、その資金を株式市場に投入する。株価が回復すれば、すぐに返済できる。共益費と修繕積立金の帳簿に不自然な動きが出ないよう、電子データの改ざんも視野に入れた。
住民たちは詳細な会計報告をあまり気にしておらず、今まで彼の説明に異議を唱えた者もいなかった。南辺はふと、管理組合の理事会での会話を思い返した。理事長の茂原も、会計監査役の木更も、会計の詳細については深く追及してこない。柏副理事長も、南辺を信頼しているようで、彼の管理方法に対して疑問を抱いている様子はない。マンションの資金は毎月住民たちから徴収されており、多少の資金のぶれには誰も気づかないだろう。これまでの経験から、理事会が会計報告を詳細に監査しないことを確信していた南辺は、その無関心さを利用することができると考え始めた。
しかし、南辺の中にはまだわずかな躊躇が残っていた。住民たちの信頼を裏切ることは大きなリスクだ。もしも発覚すれば、すべてを失うかもしれない。その恐怖が彼の心を支配しようとした。しかし、その恐怖と罪悪感を押し殺し、南辺は一時的に借用する計画に固執していった。
これは一時的な解決策だ。何も問題は起こらない。彼は自分にそう言い聞かせることで、罪悪感を薄めようとした。そもそも、南辺はこのマンションの住民たちに多大な貢献をしてきたと感じていた。その自負心が、彼の自己正当化の盾となっていた。少しぐらい住民たちの資金を借りても、誰かが不利益を被るわけではない。今は自分が危機を脱するために、この一時的な策が必要なのだと、彼は自らを納得させようとしていた。
だが、彼の心にはまだわずかな不安が残っていた。いくら自己正当化を試みても、根底には「これは間違っている」という声が聞こえていた。しかし、家計が崩壊しかけている現実が、彼の理性を徐々に麻痺させ、最終的にその声をかき消していった。彼の心の中では、次第に「借用は大丈夫だ」という声が大きくなっていき、理性の声は薄れていった。自分を納得させようとした。共益費や修繕積立金に手をつけたとしても、投資で成功すればすぐに元通りになる。その考えは、焦りと恐怖に押しつぶされそうな彼にとって、唯一の救いのように思えた。
一時的な借用だ。誰にも気づかれない。そう繰り返しながら、南辺はパソコンの前に座り、共益費と修繕積立金の帳簿を見つめていた。彼の心はすでに、次の一手を実行に移しつつあった。彼は、自分が管理している資金に手を付けることを心に決め、次に何をするべきかを考え始めた。すべてが順調に進めば、数ヶ月後には元通りになるはずだと、自分に言い聞かせた。
